【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 叶恋が心底ホッとして楽しそうにしているのを見ると、俺ももうどうでもよくなってきた。

 夫婦の間に、隠し事も不穏な雰囲気もない方がいい。

 こうやっていつも笑いあっていけたら、それは最高に幸せなことなんじゃないかと思う。

「ちなみに……持ってなかったのは、あの日が俺も初めてだったからだ」

「え?」

「俺の初めての相手も叶恋だ。
前に母親が言ってただろう? 「こけら落とし」って。
あの言葉は母親の覚え間違いだが、意味は、まあ……あってる。
あれは事実だ。
……これでもう、何も隠し事はない」

「まさか……本当に?」

「俺の最高機密だ。
叶恋にだけ話した。
それも笑い飛ばしていいぞ」

「……」

 そこまで全てを言う必要なかったか?

「……やっぱり引くよな」

 この歳まで童貞だったなんて。
 と言っても、もう返品不可なんだが……。
 
「引きません。それに笑ったりもしません。
でも…………本当に? あんなに上手なのに!?」

「上っ……そ、そう言われたら、まぁ悪い気はしないが……本当だ」

 大学時代、俺の周りはみんな知っていた。
 俺がずっと京香を好きで、やっと付き合いだしたのに兄貴に取られたことを。
 
 単科医大という狭い世界では、どんな小さなことでも隠すことは出来ない。

 皆互いに、いい事も悪い事も何もかも知られてしまうのだ。

 気の毒がられたり笑いものになったり、同級生だけでなく、他学年にわたって、俺は一様にそういう眼鏡で見られていた。
 
 そんな状況では、たとえ女から声をかけられたとしても、俺自身が心を開くことはなかった。
 プライドの問題だ。
 
 だから俺は大学の女子全てを避け続けていた。
 自分の殻に閉じこもっていたんだ。
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