【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「……もう遅い。朝になったら送っていく」
「そんなご迷惑をおかけするようなことは――」
「俺も飲んでいるから今は運転できない。
この時間にタクシーも捕まらないだろう。
……ああ、心配する人がいるのか? それなら――」
「いえ。……いません。今日は……」

 帰っても誰もいない家。
 突然自分自身がなんの価値もない空っぽになった気持ちになる。
 今の私には寄り添ってくれる人はいない……。

「なら大人しくここで寝ろ。心配するな、何もしない」

 そう言って、部屋を出ていこうとする男性の優しさに、思わず涙が込上げる。

「また泣くのか?」

 また……?

「映画館でずっと泣いてただろう?」
「あ……知ってたんですね」

 今日の私は……いや、もう日付が変わっているか。
 昨日からの私はどうかしている。
 涙腺が崩壊して涙が止まらない。

 男性は、再び溢れ出す涙を親指で拭ってくれた。
 ボロボロの私に、この人は何故こんなにも親切にしてくれるのだろう。

「何があったか知らないが、もう泣くな」
「……フラれたんです、私」
「そうか……」

 おそらく見当をつけていたのだろう。
 さして驚きもしていないようだった。

「あの……ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いや……」
「ご、ご迷惑ついでに、お願いを聞いていただけますか?」
「……? なんだ」
「ここに、一緒にいてください」
「は? 何を言って……」
「一人になりたくないんです」

 彼は唐突な私のお願いに面食らっているようだ。
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