【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「キャッ……な、何を……」
「歩けないだろう? バスルームまで運ぶ」
「……っ! ごめんなさい……」
「なぜ謝る? 立てなくしたのは俺だ」
「う…………でも……」
「じっとしてろ。首に手を回してくれたら助かるんだが」
「あ、はい……」
 
 なるべく迷惑をかけたくないので、言われた通りエイシンさんの首に抱きつく形になった。密着はするけど、この方が顔を見られなくて済むことに気づく。

 寝室の雰囲気から感じていた通り、このマンションはとてつもなく広そうだ。

 連れてこられたバスルームも当然ながら広く、ゆったりした脱衣スペースの隣にトイレがあり、その奥に独立したシャワールームとバスタブがあった。

 明るく、必要最低限のものしか置かれていないからか、モデルルームのようなバスルームだ。
 五人家族の我が家のごちゃごちゃとしたバスルームとは大違い。

「バスタオルはここだ。悪いがうちには女物の下着や化粧品はなくて、コンシェルジュに頼めば買ってきてくれるかも――」
「あの……バスタオルだけで大丈夫です」
「……?」
「下着と化粧品は……持ってます」

 実は、軽く一泊できるだけの準備はしていた。
 陽介との久しぶりのデート。一泊して来ることは母も想定内だったはず。
 だから私は夜を過ごせるように準備していたのだ。
 陽介と初めての夜を……。

 まさかこんな展開で役に立つとは思わなかったけれど。

 私が放った言葉の意味を正確に捉えたのだろう。
 エイシンさんが一瞬眉をしかめた。

「…………そうか。なら君のバッグを持って来よう」
「あ、ありがとうございます……」

 気まずいけど、コンシェルジュに頼むなんてもっと気まずい。
 それに、なるべく迷惑をかけたくない。
 昨日は、私が頼み込んで抱いてもらったようなもの。一晩、ここに置いてもらう見返りに。

 本来なら、相手が眠っている隙に姿を消すのが正しい作法なのではないだろうか。
 お礼のメモをひとつ残して。
 それが後腐れのない一夜限りの関係の礼儀な気がする。

 それなのにこんなに日が高く昇った時間まで寝てしまっていたとは……完全にミスった。
 でも体力の限界だったのよ……。
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