【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
それにしても、まさか自分がこんな一夜限りのお相手とハジメテを経験するなんて思いもしなかった。
 ハジメテは両親のように、愛する人と経験するものだと思っていた。

 陽介と付き合い出した時に、キスをした経験だけはあった。
 でも昨日のキスは、そんなのとは比べものにならないくらい大人のキス。ましてや体の繋がりは……。
 今思い出しただけでも顔が火照る。

 想定外の出来事だったけれど、不思議なくらい後悔はない。
 それはきっと、相手がエイシンさんだったからだ。
 喋り方は少しぶっきらぼうだけど、優しい人だ。

 それに明るいところで近づいて見ると、とても素敵な人だった。
 今はあの人がハジメテの相手で良かったと心から思う。
 
 エイシンさんがお湯を張ってくれた湯船に浸かっていると、全身の重だるさが解けていく。

 不思議だ……。昨日の私と、今日の私。きっと外見は何も変わっていないのに、違うんだなぁー。

 そんなことをボーッと考えていたら、少し長風呂になってしまった。

 バスタオルを体に巻き、軽くメイクをしたところで服がないことに気づく。

 服………………あ、寝室?

 さすがに裸のままで取りに行くことは出来ないので、短めのワンピース位の長さにはなるエイシンさんのシャツをまたお借りすることにした。

「遅くなってすみません。バスルームお借りしました」
「ゆっくり出来た……ウッ! ふ、服……」

 いわゆる彼シャツの格好のまま、明るいリビングに出て行くのはかなり恥ずかしい。永真さんも驚いているわ。

「す、すみません。寝室に戻ったんですが、服が見当たらなくて……」
「あ、あぁ! ……悪い。クローゼットに掛けてあったんだ。後で取ってくる……」

 そう言って少し顔を赤らめながら、カウンターチェアの上に無造作に置かれていた杢グレーのパーカーを無理やり私の腰に巻き付けた。

 永真さんのパーカーは、膝の下まですっぽりと覆う大きさだった。
 やっぱり明るいリビングでこれは見苦しいわよね。
 
「すまん……少しはマシだろ。コ、コーヒー、飲むか?」
 
 アイランドキッチンの上には、一杯だてのコーヒーがセットされていた。注ぎ口の細い、珈琲用のケトルがIHコンロに置かれている。

「行きつけの珈琲工房で挽いてもらっている。
朝はこれがないと始まらない」
「……いただきます」

 エイシンさんの飲みかけのカップからは、コーヒーのアロマが漂っていて、幸せな気分になる。
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