【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 「それでも俺は、まさか兄貴を選ぶなんてありえない、そう自分に言い聞かせていた。
だが……。
テスト期間が終わった後、偶然街中で会ったんだ、仲良く腕を組んで歩いている兄と京香に。
ばったり会った俺に、兄は嬉しそうに言ったよ。
『俺たち付き合うことになったんだ。お前が俺と京香のキューピットだな』って」

「なにそれ……ひどい……」

「兄は俺たちが付き合いだしたことを知らなかったのだから……まあ、仕方ない」

 そうだ。兄の目には一点の曇りもなかった。
 俺たちの関係には全く気付いていなかったのだ。

 だが京香は……。

 俺は信じられない思いで京香を見たが、あいつは目をそらしながらも、恥ずかしそうに俺にこう言った。

「『永真……そういうことになったの。私たちを出会わせてくれてありがとう』って」

「な……なんですかそれ!? あり得ないでしょう?」

「ああ、俺もそう思った。
それに京香の態度も許せないが、心変わりするにしても、どうしてよりによって相手が俺の兄なんだと」

「……」

「次の日、学校で京香に泣かれた。
ごめんなさい。どうしようもなかった。私たちは出会ってしまったの、と……泣きながらそう言われた。
俺は正直呆れた。京香の言い分にも、自分の女の見る目のなさにも」

「出会ってしまったら何をしてもいいんですか? 
ひどいことしてるのは自分なのに、悲劇のヒロインぶってるんじゃないわよ!」

「プッ」

 俺のことなのに。
 しかももうずいぶん昔のことだ。
 それなのに猛烈に怒りだした叶恋になぜか癒される。

「俺はもうあいつとは関わりあいたくないと思った。
許してほしいというあいつに、一つだけ約束させたんだ。
俺たちのことは兄貴に一切言うなと。
今後兄貴と別れても、結婚することになっても、どう状況が変わろうと、兄貴には絶対に言うなとな」

「でも……そんなの、京香さんにとって都合がいいだけじゃ……」

「京香はどうだっていい。問題は兄だ。
兄は俺と違って、本当にいいやつなんだ。
昔から喧嘩など一度もしたことなくて、なんでも俺に譲ってくれた。
その兄が本気の女だというんだ。兄を傷つけるようなことは絶対にしたくなかった」

「……」

「結果的に、京香も兄とは真剣に付き合っていたし、結婚してからは一真という息子にも恵まれている。
汐宮の家にとっても、長男一家と同居できて順調そのものだ。絵に描いたような幸せな一家なんだ。
良かったんだよ、これで」

 そこに俺が加わることはないが、家にとってはこれで良かったと思っている。

 それにあの人のいい兄には、したたかな京香のような嫁がいた方が安心でもある。

「じゃあ……今日のは何だったんでしょう」

「さあ……それは俺もよくわからん。
ただ俺は、もう実家に立ち寄りたいとは思えないんだ」

 あそこに家族はいるけれど、もう俺が安らげる場所ではない。
 帰れば、俺が女性不信に陥った原因がいるのだから。
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