【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「いろいろと巻き込んで悪かったな。
けど、もうあいつと会うことはないと思う。
今日のは1回だけの見舞いだし」

「そう……ですね」

 京香とのことを話したのは叶恋が初めてだった。
 今はまだ偽装恋人という仲なのだ。こんな話をする必要はなかったのかもしれない。

 だが俺は叶恋にだけは変な誤解をしてほしくなかった。
 今はもう、京香に対してなんの感情もない。
 それどころか、嫌悪感さえ持っているというのに、未だに好意を持っていると誤解されるのは心外だからだ。

 しかし誰かに話を聞いてもらうことが、こんなにスッキリするものだと思わなかった。

 カウンセリングってこういうものなんだろうな。
 いつの間にかため込んでいた負の感情が、今吐き出したことですっかり落ち着いたようだ。

「聞いてくれてありがとうな」

「……先生も聞いてくれたじゃないですか。
ここで、あの朝」

「ああ……そうだったな」

「私はあの日いっぱい泣いてボロボロだったけど、見ず知らずの親切な人が……ゴホン、その……寄り添ってくれたので、思ったよりずっと早く立ち直ることができましたよ?」

「あ、ああ……それは良かった」

「だからお互い様です」

 そう言って、少し恥ずかしげに叶恋が微笑んだ。

 ここで『寄り添う』以上のことをしたのは2ヶ月以上前のこと。あれから俺たちにそんな雰囲気はない。

 叶恋があの時のことを匂わせたのは今が初めてだった。
 叶恋はここに来ても何も思わないのだろうか。
 意識しているのは俺だけなのか? 

 思わず問いかけたくなる。

 ……いや、駄目だ。今はまだ早い。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ」だ。
 焦ってはいけない。

 しかし考えてみれば、俺たちは同じような経験をしていたのか。
 叶恋と違って俺は家族になってしまったから、一生顔を合わせないわけにはいかないが。

 だがお互い変なところで分かり合えるようだ。

……これも運命なのだろうか。
 
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