【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「あ、腹が減ってるだろう? 長話になってしまって申し訳なかった。デリバリーでも頼むか?」

 話が終わり、コーヒーを飲み終わった今、叶恋は帰ると言うはずだ。
 だが俺はまだ叶恋を帰したくない。
 
「……汐宮先生はいつもデリバリーを頼まれているんですか? 自炊は?」

「自炊はしないな。買い物に行くのが面倒だし」

「……たしか歩いて2分もかからない所に大きなスーパーマーケットがありましたよね?」

 信じられない、と言った顔をしている。
 確かに近くにスーパーはある。
 だがそれでも面倒なのだ。
 買い物をするのも、作るのも。
 手っ取り早く腹が満たされればいいわけだしな。

「買い物をしてきて作りましょうか? 
あ、でも調理器具がないか」

「い、いや、一通り揃えてはいるんだ」

 引越した当時、簡単なパスタくらいは作っていた。
 レトルトのソースをかけるだけのものだ。
 それもすぐに面倒になったんだが、あるにはある。

 叶恋にキッチンを見せると、また信じられないという顔をされた。

「なんですか、これ。こんなに立派なお鍋にフライパンが揃っているのに、自炊をしないなんて宝の持ち腐れじゃないですか。お鍋たちが可哀想ですよ!」

「……お鍋たちって。こいつらに意思はないと思うぞ」

 アニメの世界じゃないんだから。
 そう思った瞬間、俺の脳内で鍋とお玉が踊っている映像が思い出された。
 それは昔、毎日欠かさず見ていたテレビ番組のオープニングだった。
 なぜ今頃あれが? 叶恋とキッチンに居るからか? 
 叶恋の名前があの子と同じだから……。

「調理道具にも愛情をかけてあげないとダメなんですよ。きちんと手入れしていると、美味しいお料理を作らせてくれるんです」

「……」

「あ、今そんなわけないだろうとか思いました?」

「いや、そんなことは……」

「本当なんですよー」

 上目遣いに言う彼女が可愛い。
 しかし、今の言葉はあの番組のエンディングと全く同じじゃないか? まさかな? 
 かれんなんて名前、よくあるだろうし。
 それにあれは芸名の可能性大だ。

「なら、叶恋がうちの調理道具の面倒を見てやってくれ」

 こうして、なぜか調理道具を使うために二人で買い出しに出ることになったのだが……。
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