【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「京香は俺の基準じゃないんだが……その」

 え? まだ続きがあるの?

「女性がピンクを着ることは……好ましいと思っていて」

「へ?」

 言いにくそうに喋る汐宮先生の顔が、ほのかに赤らんでいる。

「それは京香に出会うもっと前からなんだ。その……」

 もっと前って……高校時代? というか、これは具体的な何かがあるってお話?

「……おし」

「おし?」

「のイメージカラーなんだ。ピンクは」

 言ってしまったー! と顔をそむけた汐宮先生の耳が赤い。

「おしって……推し!? ……な、なるほど。推しですか…………」

 やばい、ダメだ……これは――――

「プフッ!! クックック…………推しってー!
アハハハ――!!」

「……笑いたきゃ笑え…………クソッ」

 推しのカラーがピンク!
 だからピンクを押し付けていたのか。

 意外過ぎる告白に、私はお腹を抱えて笑ってしまった。
 そして、今まで胸の中でずっとくすぶっていた京香さんとのことが、きれいさっぱりなくなっていくのを感じた。

「ごめんなさい、勘違いして。
それにいっぱい笑ってしまって……ふっふっふっ……」

「……別にいい」

「かれん、なんで笑ってるの?」

「えいしん先生、顔赤いよー」

「……くそっ……何でもない。お前ら、列進んでるぞ」

 双子が不思議そうに見ている。

「あのね、永真先生の推しが――」

「――!! 叶恋っ!!」

 顔を真っ赤にした汐宮先生が、後ろから私を左手で羽交い絞めにして、右手で口を塞がれてしまった。
 フガフガ言う私を離そうとしない。

「――プハッ! 苦しいですよー、もう~。言いませんって」

「……本当だな?」

「でも私にはこっそり教えてください」

「はぁ?」

 汐宮先生にだけ聴こえるよう、耳元にこっそり囁く。
 
「……それはアイドルですか? グループ? 坂系? それとも女優さん?」

「言わない」

「えー、教えてくださいよー」

「絶対言わない」

「けちー」

 楽しい。やっぱり私、この人のことが好きだ。

「それより」

「はい?」

「さっきの……いいな」

 さっきって?

「名前。そろそろ名前で呼べよ。……元々、名前で呼んでたよな?」

「え。それは……」

 出会った時はエイシンという名前しか知らなかったからだ。
 それにあの時は同じ職場になると思わなかったし。

「でも、先生は先生ですし。呼び方を変えて医局で間違えたりでもしたら」

「別にいいだろう? 叶恋を家に送ってから、そういう噂も流れてるし」

 いやいやいや。
 噂が流れているからって、名前で呼んでいいわけじゃない。

 先生同士でだって、どれだけ上下関係があったとしても、必ず先生を付けて呼ぶのが常識(菜々ちゃんの教え)なんだから、やっぱり名前はダメだよ。

「……なら、双子と同じでいいじゃないか」

「双子って……永真先生?」

「ああ。実家の病院にいる時みたいだけど、今よりはマシだ」

「わ、わかりました…………永真先生?」

「…………お、おう」

 何このやり取り。恥ずかしすぎるんですけどー!!
 
 私達は、その後もやたらと赤くなる顔を扇ぎながら、アトラクションの列に並んだ。
 
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