〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
 大久保の勤務先は新宿区内に本社を構える電気メーカー。業界第四位に位置する東証一部の大手企業だ。

『あーあ。俺も地取《じど》りやりたかった。刑事は現場行ってこそだろ。なんで深沢班は現場に行けて、うちの班は鑑取りなんだよ』
「割り振りに文句言わない。地取りも鑑取りも両方大事でしょ」

 捜査担当の割り振りに納得がいかない様子の九条を連れて美夜は本社ビルに入った。警察の登場に顔をひきつらせた受付嬢が確認の連絡を取る間、二人は手持ち無沙汰にロビーを見回す。

『俺の家の冷蔵庫がここのメーカーなんだ。両扉つきの大容量』
「冷蔵庫のメーカーなんて気にしたことなかった。何でも良かったから」

大久保が殺害された話は社員も伝え聞いているのだろう。午後の仕事に追われる社員達が訪問者を物珍しげに見ていく。

『さては冷蔵庫はすっからかんだな? 料理しないタイプ?』
「料理に必要性を感じていないの。食べられる物なら何でもいい」
『神田とはとことん噛み合わねぇな。人間、食べる時が至福の時間だろ』
「九条くんは家で料理するの?」
『聞いて驚け。うちには麻婆豆腐を作るための豆板醤《トウバンジャン》がある。レトルトじゃなく材料揃えてイチから作る本格派中華だぞ』

何を驚けばいいかさっぱりだが、美夜はとりあえず頷いて見せた。

 大久保の上司と名乗る男がロビーまで迎えに出てきた。所属先は営業部だ。

大久保は新卒でこの企業に入社。エリートの道を進む順風満帆な人生かと思いきや、近頃は営業の成績が伸び悩んでいた。

 5月26日の土曜日に大久保に休日出勤を命じた者は誰もいなかった。大久保は翌週月曜になっても出社せず無断欠勤、彼のスマートフォンに連絡をしても繋がらない。

そして火曜の早朝、大久保の遺体が狛江市で発見された。

 営業部の大久保のデスクのパソコンに営業部の部長が社用のパスワードを入力すると、鮮やかな青色のデスクトップ画面が現れた。

パソコンの閲覧は九条に任せて、美夜はデスク周りの大久保の私物から手がかりを探した。大久保は几帳面な性格ではないらしく、引き出しの中は物が乱雑に散らばっていた。

『神田、こっち見てみろ。大久保は会社のパソコン使ってツイッターにログインしてる』
「仕事中にツイッターに書き込んでいたってこと?」
『だろうな。閲覧履歴からページ開けた。履歴くらい削除しておけばいいのに』

大久保は物の整理整頓もしない男だ。会社のパソコンを私用に使った後に、アクセス履歴を消すタイプの人間ではないのだろう。
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