〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
美夜と九条の視線は、[オクボ]名義で利用していた大久保のツイッターの最上部のツイートに注がれる。
──〈明日ホタルに会える〉──
ツイートの投稿時刻は5月25日15時47分。姿を消す前日だ。
『ホタルってあの蛍? 東京で蛍が見られる場所ってどこだ?』
「生き物の蛍だとしても“会える”って表現はしない。蛍狩りに行くなら“明日蛍を見に行く”が適切だと思う。それにこの書き方だと蛍狩りではなさそう」
念のためスマホで関東近辺の蛍狩り情報を検索した。
関東地方で蛍鑑賞のできるイベントの開催時期は、どれもが6月から7月。5月26日に蛍に関係した催し物はない。
『じゃあホタルってのは女の名前か? 大久保は独身だ。女運がないって同僚に愚痴っていたようだし、親しくしてる女がいたって話は今のところない』
大久保と親しくしていた同僚の話では、四十路の年齢で独身であることで彼は卑屈になっていた。
結婚できないのは出会いがないから、出会っても相手と相性が合わなかった、世話焼きな母親がいるせいだと述べていたと同僚は語った。
「結婚できないのは自分にも問題があると思わないのが不思議」
『お前はまじに言うことがえげつないよな。まぁ大久保が結婚できない理由はわかるけど。結婚や恋愛をあえてしないのと、したくてもできないのとはまた別だ』
次第に見えてきた大久保義人の人となり。
大久保の人生のパズルは、女のピースに飢えていた。順風満帆に見えた仕事も後輩の躍進に怯える日々。
そこに現れた一筋のホタルの光。
ツイッターに書き込まれた意味深な名前だけが現時点の有力な手掛かりだ。ツイートが虚言でなければ、大久保は5月26日に“ホタル”に会う予定があった。
休日に新宿に赴く理由もそこでホタルと待ち合わせていたと推測できる。業務時間中にツイートしてしまうほど、楽しみな予定だったに違いない。
しかし、社内の人間から学生時代の同級生まで捜査の範囲を広げたが、大久保の周囲にホタルと呼ばれる人間はひとりもいなかった。
*
6月4日月曜日、午前7時43分。東京都府中市の武蔵野公園内に寝袋のような物が置いてあると、110番通報が入った。
駆け付けた警官が寝袋の中の死体を確認。すぐに警視庁捜査一課に一報が入った。
被害者の身元は池原秀樹。自動車メーカーに勤めるサラリーマンだ。
前の二件と同じく、所持品にはスマートフォンだけがない。そして切断された池原の局部が死体と共に、寝袋に納められていた。
──〈明日ホタルに会える〉──
ツイートの投稿時刻は5月25日15時47分。姿を消す前日だ。
『ホタルってあの蛍? 東京で蛍が見られる場所ってどこだ?』
「生き物の蛍だとしても“会える”って表現はしない。蛍狩りに行くなら“明日蛍を見に行く”が適切だと思う。それにこの書き方だと蛍狩りではなさそう」
念のためスマホで関東近辺の蛍狩り情報を検索した。
関東地方で蛍鑑賞のできるイベントの開催時期は、どれもが6月から7月。5月26日に蛍に関係した催し物はない。
『じゃあホタルってのは女の名前か? 大久保は独身だ。女運がないって同僚に愚痴っていたようだし、親しくしてる女がいたって話は今のところない』
大久保と親しくしていた同僚の話では、四十路の年齢で独身であることで彼は卑屈になっていた。
結婚できないのは出会いがないから、出会っても相手と相性が合わなかった、世話焼きな母親がいるせいだと述べていたと同僚は語った。
「結婚できないのは自分にも問題があると思わないのが不思議」
『お前はまじに言うことがえげつないよな。まぁ大久保が結婚できない理由はわかるけど。結婚や恋愛をあえてしないのと、したくてもできないのとはまた別だ』
次第に見えてきた大久保義人の人となり。
大久保の人生のパズルは、女のピースに飢えていた。順風満帆に見えた仕事も後輩の躍進に怯える日々。
そこに現れた一筋のホタルの光。
ツイッターに書き込まれた意味深な名前だけが現時点の有力な手掛かりだ。ツイートが虚言でなければ、大久保は5月26日に“ホタル”に会う予定があった。
休日に新宿に赴く理由もそこでホタルと待ち合わせていたと推測できる。業務時間中にツイートしてしまうほど、楽しみな予定だったに違いない。
しかし、社内の人間から学生時代の同級生まで捜査の範囲を広げたが、大久保の周囲にホタルと呼ばれる人間はひとりもいなかった。
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6月4日月曜日、午前7時43分。東京都府中市の武蔵野公園内に寝袋のような物が置いてあると、110番通報が入った。
駆け付けた警官が寝袋の中の死体を確認。すぐに警視庁捜査一課に一報が入った。
被害者の身元は池原秀樹。自動車メーカーに勤めるサラリーマンだ。
前の二件と同じく、所持品にはスマートフォンだけがない。そして切断された池原の局部が死体と共に、寝袋に納められていた。