〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
手を引かれて向かった場所は蛍の部屋だった洋間。ギンガムチェックのベッドの上に男と女が折り重なる。
光の首筋に顔を埋めた川島は、くっきり色づいたキスマークを舌でなぞった。
「川島さんはキスマつけない人だよね」
『こんな目立つところにつけられると困るだろう。非常識な男だ』
光が購入したコンドームを装着した川島が光の中に侵入してくる。
昨日は一晩でコンドームを二つ消費した。昨夜の川島との二回目は、光には予想外の出来事だった。
『蛍……』
「ぁっ……お父さん……」
情事の最中、川島は光を蛍と呼び、光は川島をお父さんと呼ぶ。これが不健全な身体の契約の決まり事。
娘のベッドで娘の友人を抱く男。していることは、川島も蛍を殺した中井道也と変わらない。
川島の上に跨がって淫らに腰を前後に揺らす光の艶やかな黒髪が、二つの白い乳房に簾《すだれ》をかける。
去年の今頃は今より短かった髪は、生前の蛍と同じ長さになった。
光は蛍の身代わり。姿形も蛍を真似た、具現化した蛍の幽霊。
それでいい。自分は蛍が発する光だ。本体がいなければ輝けない蛍火。
快楽を貪る獣と化し、すべてを終えた川島と光は湿った背中をシーツにつけて暗い天井を仰ぐ。男と女の発情した匂いが室内に充満していた。
「ちゃんと聞いたことなかったけど、いつから蛍とセックスしてたの?」
『妻が死んで……まだ調布にいる時だ。蛍が十四歳の頃だね』
「蛍は中学生で義理の父親とヤっちゃったんだ。私が蛍から川島さんとの関係を聞いたのは高一の春だった。義理の父親だから近親相姦じゃなくてセーフだよねって、あの子は笑って言ってたよ」
蛍と川島は義理の娘と父親の一線を越えた、年の離れた恋人になっていた。
『僕達はそうしないと生きられなかったんだ。僕も蛍もそうすることで夕貴《ゆき》がいない心の穴を埋めようとしていた』
夕貴は蛍の死んだ母親。川島から蛍以外の女の名を聞くのは違和感がある。
川島は蛍ではなく妻の夕貴を愛していた。夕貴を失った身代わりが蛍だった?
「最初はどっちが誘った?」
『……蛍かな。僕が風呂に入っている時に蛍が入ってきて……そのまま風呂場で抱いた。蛍の裸を見たのは、その時が初めてだった』
「お風呂で誘惑かぁ。蛍も大胆なことするね。こっちに引っ越してからは、週末は千葉や埼玉のラブホまで行ってたって聞いたよ。団地だと大きな声出せないから、って」
『蛍を受け入れた僕もどうかしている。でも蛍も僕も寂しかったんだ』
義理の娘と肉体関係を持った川島を、死んだ妻はどう思っている?
友達の父親と肉体関係を持った光を、死んだ蛍はどう思っている?
『……正直、最初にこの話を聞いた時は君がここまでするとは思わなかった。今も驚いている』
「人を殺してみたかったって犯罪者がよく言うセリフだよね」
『殺してみたかったのか?』
川島の質問に無言でベッドを抜け出た彼女は、スマートフォンを手にした。薄暗い室内にスマホのブルーライトが眩しく光る。
「私は蛍を汚した男を絶対に許さない。それだけだよ」
光の首筋に顔を埋めた川島は、くっきり色づいたキスマークを舌でなぞった。
「川島さんはキスマつけない人だよね」
『こんな目立つところにつけられると困るだろう。非常識な男だ』
光が購入したコンドームを装着した川島が光の中に侵入してくる。
昨日は一晩でコンドームを二つ消費した。昨夜の川島との二回目は、光には予想外の出来事だった。
『蛍……』
「ぁっ……お父さん……」
情事の最中、川島は光を蛍と呼び、光は川島をお父さんと呼ぶ。これが不健全な身体の契約の決まり事。
娘のベッドで娘の友人を抱く男。していることは、川島も蛍を殺した中井道也と変わらない。
川島の上に跨がって淫らに腰を前後に揺らす光の艶やかな黒髪が、二つの白い乳房に簾《すだれ》をかける。
去年の今頃は今より短かった髪は、生前の蛍と同じ長さになった。
光は蛍の身代わり。姿形も蛍を真似た、具現化した蛍の幽霊。
それでいい。自分は蛍が発する光だ。本体がいなければ輝けない蛍火。
快楽を貪る獣と化し、すべてを終えた川島と光は湿った背中をシーツにつけて暗い天井を仰ぐ。男と女の発情した匂いが室内に充満していた。
「ちゃんと聞いたことなかったけど、いつから蛍とセックスしてたの?」
『妻が死んで……まだ調布にいる時だ。蛍が十四歳の頃だね』
「蛍は中学生で義理の父親とヤっちゃったんだ。私が蛍から川島さんとの関係を聞いたのは高一の春だった。義理の父親だから近親相姦じゃなくてセーフだよねって、あの子は笑って言ってたよ」
蛍と川島は義理の娘と父親の一線を越えた、年の離れた恋人になっていた。
『僕達はそうしないと生きられなかったんだ。僕も蛍もそうすることで夕貴《ゆき》がいない心の穴を埋めようとしていた』
夕貴は蛍の死んだ母親。川島から蛍以外の女の名を聞くのは違和感がある。
川島は蛍ではなく妻の夕貴を愛していた。夕貴を失った身代わりが蛍だった?
「最初はどっちが誘った?」
『……蛍かな。僕が風呂に入っている時に蛍が入ってきて……そのまま風呂場で抱いた。蛍の裸を見たのは、その時が初めてだった』
「お風呂で誘惑かぁ。蛍も大胆なことするね。こっちに引っ越してからは、週末は千葉や埼玉のラブホまで行ってたって聞いたよ。団地だと大きな声出せないから、って」
『蛍を受け入れた僕もどうかしている。でも蛍も僕も寂しかったんだ』
義理の娘と肉体関係を持った川島を、死んだ妻はどう思っている?
友達の父親と肉体関係を持った光を、死んだ蛍はどう思っている?
『……正直、最初にこの話を聞いた時は君がここまでするとは思わなかった。今も驚いている』
「人を殺してみたかったって犯罪者がよく言うセリフだよね」
『殺してみたかったのか?』
川島の質問に無言でベッドを抜け出た彼女は、スマートフォンを手にした。薄暗い室内にスマホのブルーライトが眩しく光る。
「私は蛍を汚した男を絶対に許さない。それだけだよ」