〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
「この工場、今はどうなってるんだろう」
『建物はそのまま残ってるらしい。壊されず跡地の利用もされずにほったらかしみたいだ』
三人の被害者の殺害方法は刃物による刺殺。相当な出血量になる。
連れ去った被害者を監禁した後に殺害するには、人目につかない場所が必要だ。
『川島犯人説がビンゴなら殺害現場はここが怪しいよな』
「九条くんもそう思う?」
『ああ。工場の権利を奪われたとしても合鍵くらい今でも持ってるだろ』
「主任に報告入れておく」
小山真紀に連絡して指示を仰ぐ。
サラリーマン連続殺人事件の捜査本部は主に小山真紀が指揮する小山班と深沢警部が指揮する深沢班で構成されているが、どちらの班も現時点で被害者三人を殺害する動機を持つ容疑者をあぶり出せていない。
個人に恨みを持つ者はいても出身、学校、就職先、趣味に至るまで全く接点のない三人の殺害となるともはや無差別殺人も同然だ。
五里霧中の状況で浮上した川島蛍の父親の存在。川島が言い逃れできない物的証拠を掴めば、彼を被疑者として拘束できる。
調布には真紀と杉浦が向かい、美夜と九条はこのまま川島の見張りを続ける。日付が変わるタイミングで、深沢班の刑事が見張りの交代にやって来る手筈《てはず》だ。
美夜は二錠の錠剤をペットボトルの水で流し込んだ。それからこめかみを押さえて座席の背もたれに身体を預ける。
『頭痛?』
「昨日寝酒に少し飲んだんだ。それがいけなかったのかも」
『無理するなよ。監視は俺がやるから少し横になれ』
「ありがとう」
男と酒を飲んでいたとは言えなかった。刑事であってもプライベートな時間をどう過ごすかは自由だ。
後ろめたくなくても言えない話もある。
今日は、二つ嘘をついた。学校で光に事情を訊く名目を教師と光に説明するためについた嘘、愁と過ごした時間を九条に秘密にするための嘘。
(木崎愁の勤め先ってどこだろう)
愁は職業をただのサラリーマンと言っていた。しかし園美が言うには彼のスーツはオーダーメイドだ。
思考を巡らせているうちに、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。愁がどこのサラリーマンであろうと、サラリーマンではなかろうと美夜には関係がない。
美夜も公務員とだけ明かして警察官の身分は隠している。どこに勤めていようと些末な問題だ。
人は嘘をつく。
どうでもいいと思える、小さな嘘を。
『建物はそのまま残ってるらしい。壊されず跡地の利用もされずにほったらかしみたいだ』
三人の被害者の殺害方法は刃物による刺殺。相当な出血量になる。
連れ去った被害者を監禁した後に殺害するには、人目につかない場所が必要だ。
『川島犯人説がビンゴなら殺害現場はここが怪しいよな』
「九条くんもそう思う?」
『ああ。工場の権利を奪われたとしても合鍵くらい今でも持ってるだろ』
「主任に報告入れておく」
小山真紀に連絡して指示を仰ぐ。
サラリーマン連続殺人事件の捜査本部は主に小山真紀が指揮する小山班と深沢警部が指揮する深沢班で構成されているが、どちらの班も現時点で被害者三人を殺害する動機を持つ容疑者をあぶり出せていない。
個人に恨みを持つ者はいても出身、学校、就職先、趣味に至るまで全く接点のない三人の殺害となるともはや無差別殺人も同然だ。
五里霧中の状況で浮上した川島蛍の父親の存在。川島が言い逃れできない物的証拠を掴めば、彼を被疑者として拘束できる。
調布には真紀と杉浦が向かい、美夜と九条はこのまま川島の見張りを続ける。日付が変わるタイミングで、深沢班の刑事が見張りの交代にやって来る手筈《てはず》だ。
美夜は二錠の錠剤をペットボトルの水で流し込んだ。それからこめかみを押さえて座席の背もたれに身体を預ける。
『頭痛?』
「昨日寝酒に少し飲んだんだ。それがいけなかったのかも」
『無理するなよ。監視は俺がやるから少し横になれ』
「ありがとう」
男と酒を飲んでいたとは言えなかった。刑事であってもプライベートな時間をどう過ごすかは自由だ。
後ろめたくなくても言えない話もある。
今日は、二つ嘘をついた。学校で光に事情を訊く名目を教師と光に説明するためについた嘘、愁と過ごした時間を九条に秘密にするための嘘。
(木崎愁の勤め先ってどこだろう)
愁は職業をただのサラリーマンと言っていた。しかし園美が言うには彼のスーツはオーダーメイドだ。
思考を巡らせているうちに、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。愁がどこのサラリーマンであろうと、サラリーマンではなかろうと美夜には関係がない。
美夜も公務員とだけ明かして警察官の身分は隠している。どこに勤めていようと些末な問題だ。
人は嘘をつく。
どうでもいいと思える、小さな嘘を。