〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
夏の記憶を探るうちに、うたた寝をしていた。日浦の声で目覚めた頃には、車窓の景色は東京の外れの団地群から東京の中心地、恵比寿に移り変わっている。
車内に日浦を残して愁は車を降りた。えびす像の前を通って西口から駅内部に入り、エスカレーター横のコインロッカーに向かう。
コインロッカーの開閉には従来の硬貨を投入して鍵で施錠する現金タイプの他に、タッチパネルで操作をする電子ロックタイプがある。
電子ロックタイプのコインロッカーで鍵の役割となるのが暗証番号だ。暗証番号は施錠時に発行のレシートに印字される。
愁のスマホに表示されたレシート画像には取り扱い日時、取り扱い場所のロッカー名、ロッカー番号、取り出しに必要な暗証番号が記載してあった。
ロッカー番号は二十五番だ。
取り扱い日時は2018年6月8日14時36分。今の時間なら受け取りにちょうどいい頃合いだろう。
稀に、ロッカーに指定の物を預けた“本人”がロッカー周辺を見張っている場合がある。好奇心か知らないが、自分が殺人代行を頼んだエイジェントの正体を突き止めようとする命知らずの馬鹿が一定数いるのだ。
タッチパネルから[取り出し]ボタンを選択し、レシートにある暗証番号を入力。これで鍵が解錠される。
開いた二十五番のコインロッカーには茶封筒が入っていた。封筒の中身は確認するまでもなく代行依頼料の現金十万円。
誰もコインロッカーに現金が預けられていたとは思わない。夜の恵比寿駅を徘徊する老若男女の間をすり抜けて、彼は日浦が待つ車に戻った。
車は恵比寿から赤坂へ。赤坂のマンションに帰宅した愁を出迎えたのは夏木伶だった。いつもなら出迎えに出てくる舞がいない。
『舞は部屋?』
『風呂です。新しい入浴剤を買ったからそれで半身浴するらしくて。さっき入りに行ったので、当分は出てきませんよ』
舞の所在を確認後に、愁はコインロッカーから引き取った茶封筒を伶の前に放る。伶は封筒から取り出した札束の枚数を数えていた。
『よくもまぁ、どいつもこいつも十万で人殺しを頼むものだ』
『殺したい人間を自分では殺せない人間が多いんですよ。だから“殺してくれてありがとう”なんです。十万で代わりに殺してもらえるなら安いものなんでしょう』
“殺してくれてありがとう”
伶の口からその言葉を聞くのは二度目だ。一度目は春雷の夜。伶はまだ十歳だった。
車内に日浦を残して愁は車を降りた。えびす像の前を通って西口から駅内部に入り、エスカレーター横のコインロッカーに向かう。
コインロッカーの開閉には従来の硬貨を投入して鍵で施錠する現金タイプの他に、タッチパネルで操作をする電子ロックタイプがある。
電子ロックタイプのコインロッカーで鍵の役割となるのが暗証番号だ。暗証番号は施錠時に発行のレシートに印字される。
愁のスマホに表示されたレシート画像には取り扱い日時、取り扱い場所のロッカー名、ロッカー番号、取り出しに必要な暗証番号が記載してあった。
ロッカー番号は二十五番だ。
取り扱い日時は2018年6月8日14時36分。今の時間なら受け取りにちょうどいい頃合いだろう。
稀に、ロッカーに指定の物を預けた“本人”がロッカー周辺を見張っている場合がある。好奇心か知らないが、自分が殺人代行を頼んだエイジェントの正体を突き止めようとする命知らずの馬鹿が一定数いるのだ。
タッチパネルから[取り出し]ボタンを選択し、レシートにある暗証番号を入力。これで鍵が解錠される。
開いた二十五番のコインロッカーには茶封筒が入っていた。封筒の中身は確認するまでもなく代行依頼料の現金十万円。
誰もコインロッカーに現金が預けられていたとは思わない。夜の恵比寿駅を徘徊する老若男女の間をすり抜けて、彼は日浦が待つ車に戻った。
車は恵比寿から赤坂へ。赤坂のマンションに帰宅した愁を出迎えたのは夏木伶だった。いつもなら出迎えに出てくる舞がいない。
『舞は部屋?』
『風呂です。新しい入浴剤を買ったからそれで半身浴するらしくて。さっき入りに行ったので、当分は出てきませんよ』
舞の所在を確認後に、愁はコインロッカーから引き取った茶封筒を伶の前に放る。伶は封筒から取り出した札束の枚数を数えていた。
『よくもまぁ、どいつもこいつも十万で人殺しを頼むものだ』
『殺したい人間を自分では殺せない人間が多いんですよ。だから“殺してくれてありがとう”なんです。十万で代わりに殺してもらえるなら安いものなんでしょう』
“殺してくれてありがとう”
伶の口からその言葉を聞くのは二度目だ。一度目は春雷の夜。伶はまだ十歳だった。