〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
『自分で殺すと言った女は殺したい人間を最後に殺して自分で死んだ』
『愁さんお気に入りのあの高校生ですか』
『変な言い方するな。道端で拾って面倒見ただけだ』
『愁さんは猫でも拾うように人間拾ってきますよね。俺と舞も愁さんに拾われたようなものですし』
10年前に夏木十蔵の養子に迎えられた伶と舞は、夏木コーポレーションが所有するタワーマンションで生活していた。
養子縁組をした関係であっても伶と舞と夏木十蔵は祖父と孫と言う方が相応しい。
夏木は妻と別居中であり、他に伶と舞の世話役を務められる者はいない。
伶と舞はタワーマンションの広い部屋で、通いの家政婦が作り置きした食事やデリバリーの料理を二人で食べていた。それは伶にとって養子に引き取られる以前と何ら変わりない生活だった。
春雷の遭遇と乖離《かいり》から2年後の冬に愁と伶は再会する。夏木は愁に伶と舞の保護者代わりを命じ、赤坂のこのマンションで奇妙な三人の同居生活が始まった。
あの時に小学生だった舞は高校生、中学生だった伶も大学生に成長した。
『愁さんが結婚すれば舞も諦めがつくのかな』
『残念ながら期待には応えられねぇな。俺は結婚はしない』
舞が愁と結婚すると言い出したのは、同居を始めた直後。当時小学生にして舞は早熟な子どもだった。
『愁さんと結婚したそうな女は腐るほどいるのに、いつも女に望み持たせてバッサリ捨てますよね』
『女は精子の放出先。それで充分だ』
『……愁さん』
リビングを出かけた愁を引き留めた伶は、険しい顔つきで愁を見据える。互いに無言で視線を交わした後、伶が重たい口を開けた。
『愁さんが舞を大切にしてくれていることはわかっています。だからこそ中途半端に期待を持たせないでください。きっぱり振られて傷付く方が舞のためです』
『わかってる。いつか俺は舞に嫌われるからな』
『嫌われる? どうして?』
『それが俺の立場なんだよ。……お前は本当にいい兄貴だよな』
ひらひらと伶に片手を振って愁はリビングを立ち去った。ネクタイとシャツを床に放り投げて、彼は自室のベッドに寝転んだ。
何もする気になれず、プライベート用のスマホをぼうっと眺める。
トークアプリの友だち一覧に加わった友達ではない存在。次に会う機会があるかわからない女の名前は、神田美夜。
キスをしようとすればそんなつもりはないと拒絶し、動揺を酒で誤魔化していた。
まったく変な女だった。
『愁さんお気に入りのあの高校生ですか』
『変な言い方するな。道端で拾って面倒見ただけだ』
『愁さんは猫でも拾うように人間拾ってきますよね。俺と舞も愁さんに拾われたようなものですし』
10年前に夏木十蔵の養子に迎えられた伶と舞は、夏木コーポレーションが所有するタワーマンションで生活していた。
養子縁組をした関係であっても伶と舞と夏木十蔵は祖父と孫と言う方が相応しい。
夏木は妻と別居中であり、他に伶と舞の世話役を務められる者はいない。
伶と舞はタワーマンションの広い部屋で、通いの家政婦が作り置きした食事やデリバリーの料理を二人で食べていた。それは伶にとって養子に引き取られる以前と何ら変わりない生活だった。
春雷の遭遇と乖離《かいり》から2年後の冬に愁と伶は再会する。夏木は愁に伶と舞の保護者代わりを命じ、赤坂のこのマンションで奇妙な三人の同居生活が始まった。
あの時に小学生だった舞は高校生、中学生だった伶も大学生に成長した。
『愁さんが結婚すれば舞も諦めがつくのかな』
『残念ながら期待には応えられねぇな。俺は結婚はしない』
舞が愁と結婚すると言い出したのは、同居を始めた直後。当時小学生にして舞は早熟な子どもだった。
『愁さんと結婚したそうな女は腐るほどいるのに、いつも女に望み持たせてバッサリ捨てますよね』
『女は精子の放出先。それで充分だ』
『……愁さん』
リビングを出かけた愁を引き留めた伶は、険しい顔つきで愁を見据える。互いに無言で視線を交わした後、伶が重たい口を開けた。
『愁さんが舞を大切にしてくれていることはわかっています。だからこそ中途半端に期待を持たせないでください。きっぱり振られて傷付く方が舞のためです』
『わかってる。いつか俺は舞に嫌われるからな』
『嫌われる? どうして?』
『それが俺の立場なんだよ。……お前は本当にいい兄貴だよな』
ひらひらと伶に片手を振って愁はリビングを立ち去った。ネクタイとシャツを床に放り投げて、彼は自室のベッドに寝転んだ。
何もする気になれず、プライベート用のスマホをぼうっと眺める。
トークアプリの友だち一覧に加わった友達ではない存在。次に会う機会があるかわからない女の名前は、神田美夜。
キスをしようとすればそんなつもりはないと拒絶し、動揺を酒で誤魔化していた。
まったく変な女だった。