〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
 川島の製紙工場の地下倉庫から血痕が発見されたことで、川島への任意同行の指令を受けた美夜と九条は川島の自宅に急いだ。

六号棟の五○七号室は明かりがついている。呼び鈴を鳴らして数秒待っても扉は開かず、物音ひとつ聞こえなかった。

「留守ってことはないよね?」
『俺達がずっと見張っていたんだ。車は動いてないし、部屋の電気もずっとついてる。出掛けるとすれば歩きで近くのスーパーか……』

 九条がドアノブに手をかけると簡単にノブが回った。鍵が開いている。二人はアイコンタクトを取り、無言で五○七号室の扉を開けた。

玄関を入って最初の部屋はダイニングキッチンだ。雑然として生活感溢れるダイニングの床に赤い液体が点々と落ちている。

『血痕だな』
「まだ渇ききっていないね。行き先は……洗面所?」

 美夜は血の足跡を追う。点々と続く血の道は洗面台で止まっていた。鏡には血の手形がくっきり残っている。

歯ブラシ立てには緑色の歯ブラシの隣に赤色の歯ブラシが並んでいた。蛍が死んだ1年前と部屋や私物をそのままにしていても、最近使用した形跡のある真新しい歯ブラシがここにあるのは不自然だ。

 洗面台の内側に残る一本の黒髪は長さから見て女の毛髪だった。

『神田、こっち来いよ。川島が死んでる』

 九条に呼ばれた美夜は予想していた光景に溜息をついた。続き間の洋室のベッドに仰向けに倒れている全裸の男は、川島拓司に間違いない。
美夜は川島の顎に触れた。

「顎の硬直が始まってる」
『指もだ。この固まり方だと死後1時間から2時間』
「頸部と腹部にそれぞれ刺し傷があるね。それとこれまでと同じで局部が切り取られている」
『局部切断の情報は報道には流していない。サラリーマン殺しと同一犯だ』

 血が染み込んだシーツは真っ赤に染まり、そこに横たわる血まみれの男の傍らには、無惨に切り取られた男の局部が転がっていた。

黒々とした陰毛は赤黒く濡れ、下半身側のシーツも血溜まりができている。刑事でなければ悲鳴をあげている光景だ。
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