〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
だらだらと時間を消費していた美夜の体内が空腹の鐘を鳴らした。美夜は食への関心が薄い。
特別好きな食べ物もなければ、嫌いな食べ物もない。
小さな冷蔵庫の中身は牛乳、卵、マーガリン、あとは未開封のウインナー。手軽に食べられる物はシリアルかインスタントの味噌汁くらいで、自炊もしない彼女は何かを食べたいと強く思う欲求もなかった。
「……ムゲットのパスタ食べたい」
食への関心がない美夜が唯一の食欲を向けた物が近くのイタリアンレストラン、mughetto《ムゲット》の料理だ。あそこで飲むコーヒーも格別に美味しい。
何よりオーナー夫妻の気質がいい。
薄手のパーカーにジーンズ、顔には日焼け止めをさっと塗って外に出た。
街は予想以上に暑い。ビルがひしめく赤坂の路地にイタリア国旗が薫風に乗ってはためいていた。
ランチのラストオーダーは14時半。オーダーストップには間に合った。
地下に続く階段の手前に設置されたブラックボードには、今日のランチメニューが書いてある。Aランチはトマトチーズハンバーグ、Bランチが本日のパスタ、Cランチはカレー。
ランチをどれにしようか考えながら彼女は地下に降りた。
オーダーストップ直前だからだろう。店内に客の姿は見当たらない。扉の前で遠慮がちに立ち尽くす美夜に最初に気づいたのは、ウエイトレスだ。
「ランチまだ大丈夫ですか?」
「少しお待ちください。園美さーん、今からおひとり大丈夫ですか?」
応対に出たウエイトレスは小柄で若い。丸くて大きな目が印象的だ。初めて見る顔だった。
美夜がこの時間帯の来店が初めてなのだから当然だ。昼と夜では従業員の顔ぶれも違う。
厨房から顔を覗かせたのは、ムゲットのオーナーの妻の白石園美。先月以降、美夜は何度かムゲットを訪れて、園美とも互いの顔と名前を認知する間柄になっている。
美夜の来店を園美は笑顔で歓迎した。
「ごめんね。今日はAランチはもう切れてて、ランチはパスタかカレーになっちゃうんだ」
「気にしないでください。ちょうどパスタが食べたかったので」
Bランチのパスタは牛肉のボロネーゼ、魚介のペスカトーレ、ベーコンと旬野菜のペペロンチーノの三種類ある。選んだパスタは魚介のペスカトーレだ。
「お先に失礼します」
「お疲れ様ー」
『お疲れ様でしたー』
美夜が料理を待つ間に、昼間担当のウエイトレス二名とウェイターが園美とシェフ達に挨拶をして退勤した。ラストオーダー終了の14時半からディナー開始の18時まで店を一旦閉めるそうだ。
バリスタの園美が自らスープとサラダを運んできてくれた。ディナータイムも園美は率先して配膳を行っている。
「私もここでまかない頂いてもいい?」
「もちろんです。リゾットですか?」
「余り物を詰め込んだなんちゃってリゾット」
二人席の向かいに園美は腰を降ろした。園美のまかないは、余り物で作ったとは思えない美味しそうなリゾットだった。
特別好きな食べ物もなければ、嫌いな食べ物もない。
小さな冷蔵庫の中身は牛乳、卵、マーガリン、あとは未開封のウインナー。手軽に食べられる物はシリアルかインスタントの味噌汁くらいで、自炊もしない彼女は何かを食べたいと強く思う欲求もなかった。
「……ムゲットのパスタ食べたい」
食への関心がない美夜が唯一の食欲を向けた物が近くのイタリアンレストラン、mughetto《ムゲット》の料理だ。あそこで飲むコーヒーも格別に美味しい。
何よりオーナー夫妻の気質がいい。
薄手のパーカーにジーンズ、顔には日焼け止めをさっと塗って外に出た。
街は予想以上に暑い。ビルがひしめく赤坂の路地にイタリア国旗が薫風に乗ってはためいていた。
ランチのラストオーダーは14時半。オーダーストップには間に合った。
地下に続く階段の手前に設置されたブラックボードには、今日のランチメニューが書いてある。Aランチはトマトチーズハンバーグ、Bランチが本日のパスタ、Cランチはカレー。
ランチをどれにしようか考えながら彼女は地下に降りた。
オーダーストップ直前だからだろう。店内に客の姿は見当たらない。扉の前で遠慮がちに立ち尽くす美夜に最初に気づいたのは、ウエイトレスだ。
「ランチまだ大丈夫ですか?」
「少しお待ちください。園美さーん、今からおひとり大丈夫ですか?」
応対に出たウエイトレスは小柄で若い。丸くて大きな目が印象的だ。初めて見る顔だった。
美夜がこの時間帯の来店が初めてなのだから当然だ。昼と夜では従業員の顔ぶれも違う。
厨房から顔を覗かせたのは、ムゲットのオーナーの妻の白石園美。先月以降、美夜は何度かムゲットを訪れて、園美とも互いの顔と名前を認知する間柄になっている。
美夜の来店を園美は笑顔で歓迎した。
「ごめんね。今日はAランチはもう切れてて、ランチはパスタかカレーになっちゃうんだ」
「気にしないでください。ちょうどパスタが食べたかったので」
Bランチのパスタは牛肉のボロネーゼ、魚介のペスカトーレ、ベーコンと旬野菜のペペロンチーノの三種類ある。選んだパスタは魚介のペスカトーレだ。
「お先に失礼します」
「お疲れ様ー」
『お疲れ様でしたー』
美夜が料理を待つ間に、昼間担当のウエイトレス二名とウェイターが園美とシェフ達に挨拶をして退勤した。ラストオーダー終了の14時半からディナー開始の18時まで店を一旦閉めるそうだ。
バリスタの園美が自らスープとサラダを運んできてくれた。ディナータイムも園美は率先して配膳を行っている。
「私もここでまかない頂いてもいい?」
「もちろんです。リゾットですか?」
「余り物を詰め込んだなんちゃってリゾット」
二人席の向かいに園美は腰を降ろした。園美のまかないは、余り物で作ったとは思えない美味しそうなリゾットだった。