〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
「ふふっ。あの日にお気に入りのピアスを落とさなかったら、私達は結婚してなかったのよね。出会いって不思議よ。だけど付き合い始めて3ヶ月後に遠距離になったの」
「3ヶ月で遠距離に?」
「雪斗がイタリアにシェフ修行に行っちゃったんだ。その間に私もバリスタの勉強してライセンスとって、雪斗の帰りを待ってた。イタリアと日本の遠距離を3年かな」

 美夜は遠距離恋愛どころかまともな恋愛の経験すらない。学生時代の甘酸っぱい初恋にも嫌な記憶が付きまとう。

海外と日本の遠距離恋愛がどのようなものか、想像もつかなかった。

「友達にはどうせ向こうでイタリア人の彼女作られて捨てられるよって言われるし、親にはいつ帰ってくるかわからない男を待ってないで違う人と結婚しろって言われるし、あの3年間は散々だったのよぉ?」

 園美の視線を受けた雪斗が苦笑いしている。3年の遠距離恋愛を乗り越えて結婚した二人は、結婚願望のない美夜でも素直に素敵だと思えた。

「私は結婚したいとは思えないんです。今日も友達がインスタで結婚の報告していて、いいねだけ押して逃げちゃいました」
「ああ、インスタね。私も友達の子どもの写真にいいねだけ押して、スルーしちゃうよ。何かコメントするとあっちの自慢話と詮索が入るのが嫌なの」
「私もです。まだ結婚しないの? って聞かれるのがオチだから、コメントも躊躇しちゃう」
「結婚したくない人の気持ちや子どもができない人の気持ちはわかっているようで、わからないものよ。親にもなかなか理解されないもの。結局は当事者にしかわからないのよね」

 雪斗と園美の夫妻に子どもがいるとは聞いていない。産まなかったのか産めなかったのか、センシティブな話題は相手が話してくれない限り踏み込めない。

美夜も結婚したくない理由を園美達の前では口に出せないでいる。

「子どもを産むのも人生、産まないのも人生。結婚も、したくない人はしなくていいと思う。世間は色々と煩いけど自分の人生だもの。美夜ちゃんの好きにすればいいんだよ」

 園美は快活に笑っているが、彼女を見つめる雪斗の横顔には憂《うれ》いの影ができている。園美の口振りや雪斗の表情を見れば、幸福ばかりの結婚生活ではなかったようだ。

それでも今の彼女は愛する人の隣で幸せに満ちた微笑みを魅せていた。
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