【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 ……わたくしに対して、そんなふうに接してくれた一度たりともなかった。

 なにも言えずにいると、レグルスさまが辺りを見渡して人差し指を口元に立てる。

「ここでは少し……言いづらいと思いますよ。誰が聞いているかもわかりませんから」

 それだけで、お父さまは察したようだった。

 わたくしは曖昧に微笑んでみせると、お兄さまが近付いてきて、そっと手を伸ばして頭を撫でた。――まるで、慰めるように。

 目を(またた)かせてお兄さまを見ると、彼はバツが悪そうに視線をそらした。

 ……知っているのね、マーセルが、自分の本当の妹だと。

「そう、大変だったのね……」

 ぽつり、とお母さまが言葉をこぼす。

 あの鋭い視線はなんだったのかしら、と思うくらい優しい声色だった。思わず、お母さまを見つめてしまう。

 ……マーセルと同じプラチナブロンドがふわりと揺れて、扇で口元は隠れているけれど、その視線から温かさを感じた。(あわ)れむような、その言葉にわたくしはやっぱり、曖昧に微笑むことしかできなかった。

「……カミラさまは、どんな方ですか?」

 きっと今なら、素直な気持ちを話してくれるのではないかと思い、そう(たず)ねる。

 お父さまたちから見たわたくしのことが知りたくなったの。お父さまはふっと目を伏せて「よくできた子だよ」と答えた。
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