【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 化粧をしているようにも見えないし……貴族の令嬢のように、バリバリのメイクをしろってことではないのだけどね。

 あれって一歩間違えば……いえ、今はそんなことを考えなくても良いわよね。

「……カミラさまのほうが美しいですよ」
「そりゃあ、アレだけ磨かれたら、誰だって美しくなるわよ……」

 思わず遠い目を浮かべてしまう。

 メイドたちにピッカピカに磨かれて、化粧水やら美容液やらを塗りたくられ……。それが普通だったので、マーセルの身体になって驚いた。

 彼女の部屋にあるのは、オールインワンの基礎化粧品だったから。

「公爵令嬢って大変なんですね……」
「その役目も終わりそうで良かったわ」
「……大丈夫ですか?」

 心配そうな声に、わたくしは眉を下げて微笑む。

 まだ、大丈夫と言い切ることはできないけれど……お父さまたちの考えを聞いて、もう二度とあの場所に戻りたくないと思ってしまった。

「……マティス殿下とレグルスさまは、どちらのほうが強いのかしら?」
「うーん……どちらでしょう。マティス殿下も、腕が立ちますよね」
「ええ。……みんな、彼に遠慮しているのかもしれないけれど……」

 マティス殿下に勝とうとしていないかもしれないし……憶測でしかないけれどね。

 そんな会話をしていると、五分なんてあっという間に過ぎる。

 蒸しタオルを取り、トリートメントを洗い流した。

「こんな感じでやってみてもらえる?」
「かしこまりました」

 乾いたタオルでクロエの髪を包み込んでから(たず)ねる。

 彼女は神妙な顔でうなずき、立ち上がってわたくしを椅子に座らせた。

 シャワーを手にして、髪を濡らしていく。

 わたくしがやったのを真似するように、シャンプーを泡立ててわしゃわしゃと洗っていく。やっぱり覚えるのが早いわね。

 心地良い力加減で洗われて気持ち良かった。
< 114 / 232 >

この作品をシェア

pagetop