【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

カースティン家の食堂で。

「まずは、自己紹介をさせてください。リンブルグから留学したレグルスと」
「ブレンと申しますー」

 レグルスさまが口を開き、自己紹介を始めた。オリヴィエさまとノランさまは「ああ!」という顔をして、小さくうなずく。

「お噂はかねがね。リンブルグの王太子……だったか?」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 にこやかな挨拶を()わして、ノエルさまの視線がクロエと『カミラ』に移る。クロエは自分の胸元に手を当てた。

「マティス殿下の主治医の一人、クロエと申します」
「ああ、平民の……」

 ノランさまがぽつりとつぶやく。そのつぶやきにクロエは笑みを浮かべて、「はい、そうです」と胸を張って答える。

 ……強い、わね。

「――それと……」
「カミラ・リンディ・ベネット公爵令嬢ですわ」

 ――わざと、わたくしが紹介した。ぱぁっと表情が明るくなったのはオリヴィエさまだけで、ノランさまは一瞬表情を強張(こわば)らせた。

 でも、本当に一瞬だけ。

 ……どうやら、わたくしたちのトレードを知っているのは、ノランさまだけのようね。

「――元気に過ごしていましたか? カミラさま」
「え、ええ……まぁ……」

 そっと視線を外す『カミラ』。それを不思議そうに見るオリヴィエさま。

 ノランさまはこほんと一度咳払いをしてから、メイドたちを呼んでいろいろなものを用意する。お茶やお茶菓子、軽食も。

 目をキラキラと輝かせるブレンさまに、レグルスさまは「こいつは……」とどこか呆れたように息を吐く。
< 165 / 232 >

この作品をシェア

pagetop