【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 一通り食べ終えてから、ノランさまがオリヴィエさまに声をかける。

「オリヴィエ、この前の刺繍を見せてあげたらどうだ?」
「刺繍?」

 レグルスさまが首をかしげて問うと、ノランさまはこくりとうなずいた。そして、どこか自慢げに口を開く。

「オリヴィエの刺繍は一級品なんだ。この前大作が出来上がったばかりでね、みんなに見てもらおうと思って」
「やだ、あなたったら。でも、そうね。見てもらおうかしら」

 かたんとオリヴィエさまが立ち上がり、刺繍を取りに食堂から出ていった。

 それを見送ってから、ノランさまがすっと目を細めてわたくしたちを見渡す。

「――なぜ、うちに来たんだ?」

 硬い声に『カミラ』がびくりと肩を震わせた。

「とある事実を、確認したくて参りました」
「こんなに大勢で?」
「関わっちゃいましたからねー」

 ブレンさまがのんびりとした口調とは裏腹に、鋭い視線をノランさまに向けた。その視線に、彼の眉がピクリと跳ねあがる。

「――どうして、知っていながら、公爵の要望を却下したのですか?」
「まぁ、このおうちを見ればわかりますけどねー」

 レグルスさまとブレンさまの言葉に、ノランさまはわかりやすく表情を引きつらせた。

 わたくしとマーセルも彼を見つめる。

 クロエはそんな様子のわたくしたちを、眉を下げて眺めていた。きっと、心配してくれているのだろう。

「――お父さま」
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