【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

最初で最後のわがまま。

 この三人は、先程までカースティン男爵邸で同じことを聞いていた。さらにブレンさまがすっと人差し指を立てると、ふわふわとした煙がでてきて、その煙の中にあの話をしていたわたくしたちが映っていた。

 ――その内容を知り、公爵家の人たちはゆっくりと息を吐き、苦々しそうに表情を歪める。

「わたくしはもう、あなた方の愛情を求めません。最初は、愛されたかった。どうしていつも、わたくしにだけ冷たいのか、悩んで……あなた方の望むようにすれば、いつかきっと愛してくれると信じていた。……でも、もう良いのです。こんなこと、終わりにしましょう……!」

 言っているあいだに、涙が出そうになった。なんとか涙をこらえて、ぐっと拳を握りしめた。

 ――家族に、愛されたかった。褒めてもらいたかった。優しく微笑んでほしかった。でも、それももう、今日で終わり。

「わたくしを、自由にしてください……!」

 そう切実に伝えると、お父さまの瞳が揺れた。

「自由になって、どうするつもりだ? お前は、ベネット公爵令嬢であることには変わりないんだぞ!」
「――リンブルグへ行きます」

 その言葉だけは、凛とした声で言えた。レグルスさまはこちらを見る。ぱぁっと明るく笑う姿を見て、わたくしも同じように笑みを浮かべる。

「わたくしを望んでくれる人と、一緒にいたいのです」

 心の底からの言葉に、お父さまたちが言葉を()んだのがわかった。

「――これがわたくしの……カミラ・リンディ・ベネットとしての、最初で最後のわがままですわ」
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