【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 マティス殿下がわたくしの手を取って、ぐっと引き寄せてホールドする。音楽に合わせて踊り出すと、不思議なことにいつものように踊れた。身体がついていかないんじゃないかって、少し不安だったのだけど……わたくしったら天才なのかしら? なんてね。

 あまりにもスムーズに踊られるからか、彼は意外そうに目を丸くしたけれど、すぐに笑みを浮かべた。なにを考えているのかはわかる。『がんばったね』と顔に書いてあるから。

 わたくしもにこりと微笑みを浮かべる。ダンスのときは笑顔が基本。パートナーに不愉快な思いをさせないためにもね。

 あまりにも上手に踊れたからか、先生がわたくしたちに近付いて、パンパンっと手を二回叩いて動いて止めさせた。

「驚きました、今日は一度も殿下の足を踏んでいませんね」

 マーセル……あなた、どれだけマティス殿下の足を踏んでいたの? ちょっと気になるじゃない。

「これなら、他の人と踊っても大丈夫そうですね。誰か、マーセルの相手をお願いします」
「え、ちょっと待ってください、先生……」
「先生、それなら俺が。マーセル嬢の相手をしますよ」

 レグルスさまが立候補した。マティスは意外そうに目を丸くして彼を見た。レグルスさまはわたくしに向けてパチンとウインクをしてから、近付いた。そして、胸元に手を当てて、右手を差し出す。

「レディ、俺と踊っていただけますか?」
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