〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
『栞里のスマートフォンが最後に使われた発信地点を割り出した。7月29日19時38分、場所は渋谷駅構内。この時間は栞里のストーリーズに写真が投稿された時間と一致する』
「渋谷駅……」
『夜7時の渋谷は人の嵐だな』
インスタグラムの操作はハッキングでもしない限りは、投稿も削除も行えるのはアカウント所有者のみ。自分の死体写真をSNSに投稿できるわけがない。
栞里のスマートフォンを使用して彼女のインスタグラムに死体写真を投稿した者が、すなわち栞里を殺害した犯人だ。
美夜達が閲覧するタブレット端末の画面は栞里の死体写真に戻された。九条の手元に渡ったタブレットを横から覗き込む美夜は、栞里の手元を拡大する。
「一課長。この花は生花ではなく造花ですね。拡大するとわかりますが、花は布で作られています」
美夜の指摘を受けて全員が栞里の手元の花に注目する。栞里が胸に抱いている花束の花は鮮やかな赤色と黄色、ピンク色の小花が稲穂のようについている。
「これは……キンギョソウ?」
『キンギョソウ?』
「花の形が金魚に見えるからその名前がついたの。昔、祖母の家で金魚草を見たことがあって、この造花と形が似ているんです」
伊東班のタブレットが金魚草のデータを表示する。小山班のタブレットに映る造花と見比べてみると確かに花の形状は金魚草によく似ていた。
栞里が寝かされた白い床に散る花弁も造花に見える。散った金魚草の海を泳ぐ無数の金魚のオブジェは、ガラス細工だ。
造花の金魚草にガラスの金魚、どこまでも金魚づくしな死体のアートには何の意味がある?
『栞里の死体写真は今もSNSで拡散され続けている。そのうちマスコミも騒ぎ出すだろう。第一に栞里の遺体の捜索、そしてこの写真が撮られた現場の特定だ。伊東班は渋谷駅周辺で不審者の聞き込みと写真から読みとれる情報の分析、小山班は栞里が失踪した当日の足取りと彼女の交遊関係を洗ってくれ。解散』
夏の盛りに発生した死体なき殺人事件。
鳴沢栞里の死亡は確定しているのに彼女の死体は液晶画面上にしか存在しない。失踪した日が7月26日だとしても詳細な死亡推定時刻は不明。
殺害に使用された毒物も画面越しには判別のしようがない。暗中模索な状況下で鳴沢栞里殺害事件の捜査は始まった。
不確定要素が多い事件はそれだけで現場の士気を落とす。足取りを重くしてミーティングルームを去る伊東班の刑事達の中に、ひとりだけ挑発的な笑みを浮かべる男がいた。
扉の前で立ち止まった男はタブレットを見ながら話し込む美夜と九条に視線を向ける。
『あのまま呑気に朝飯食って昼寝してくれて構わないのに』
『は? なんか言ったか?』
『俺達だけで充分だって話。伊東班の足引っ張るなよ』
彼の名前は七係所属の刑事、南田康春。南田は美夜と九条と同じく今春から警視庁に配属になった新人だ。
「渋谷駅……」
『夜7時の渋谷は人の嵐だな』
インスタグラムの操作はハッキングでもしない限りは、投稿も削除も行えるのはアカウント所有者のみ。自分の死体写真をSNSに投稿できるわけがない。
栞里のスマートフォンを使用して彼女のインスタグラムに死体写真を投稿した者が、すなわち栞里を殺害した犯人だ。
美夜達が閲覧するタブレット端末の画面は栞里の死体写真に戻された。九条の手元に渡ったタブレットを横から覗き込む美夜は、栞里の手元を拡大する。
「一課長。この花は生花ではなく造花ですね。拡大するとわかりますが、花は布で作られています」
美夜の指摘を受けて全員が栞里の手元の花に注目する。栞里が胸に抱いている花束の花は鮮やかな赤色と黄色、ピンク色の小花が稲穂のようについている。
「これは……キンギョソウ?」
『キンギョソウ?』
「花の形が金魚に見えるからその名前がついたの。昔、祖母の家で金魚草を見たことがあって、この造花と形が似ているんです」
伊東班のタブレットが金魚草のデータを表示する。小山班のタブレットに映る造花と見比べてみると確かに花の形状は金魚草によく似ていた。
栞里が寝かされた白い床に散る花弁も造花に見える。散った金魚草の海を泳ぐ無数の金魚のオブジェは、ガラス細工だ。
造花の金魚草にガラスの金魚、どこまでも金魚づくしな死体のアートには何の意味がある?
『栞里の死体写真は今もSNSで拡散され続けている。そのうちマスコミも騒ぎ出すだろう。第一に栞里の遺体の捜索、そしてこの写真が撮られた現場の特定だ。伊東班は渋谷駅周辺で不審者の聞き込みと写真から読みとれる情報の分析、小山班は栞里が失踪した当日の足取りと彼女の交遊関係を洗ってくれ。解散』
夏の盛りに発生した死体なき殺人事件。
鳴沢栞里の死亡は確定しているのに彼女の死体は液晶画面上にしか存在しない。失踪した日が7月26日だとしても詳細な死亡推定時刻は不明。
殺害に使用された毒物も画面越しには判別のしようがない。暗中模索な状況下で鳴沢栞里殺害事件の捜査は始まった。
不確定要素が多い事件はそれだけで現場の士気を落とす。足取りを重くしてミーティングルームを去る伊東班の刑事達の中に、ひとりだけ挑発的な笑みを浮かべる男がいた。
扉の前で立ち止まった男はタブレットを見ながら話し込む美夜と九条に視線を向ける。
『あのまま呑気に朝飯食って昼寝してくれて構わないのに』
『は? なんか言ったか?』
『俺達だけで充分だって話。伊東班の足引っ張るなよ』
彼の名前は七係所属の刑事、南田康春。南田は美夜と九条と同じく今春から警視庁に配属になった新人だ。