〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
九条と南田の数秒間続いた睨み合い。南田が先にミーティングルームを出ると、九条はわかりやすく嫌悪のこもる舌打ちをした。
「九条くんと南田くんって警察学校の同期だったよね?」
『警察学校時代から何かと俺に突っかかってくるんだ。こっちは今も昔も気に障ることした覚えはねぇのに』
「私は挨拶程度しか話したことないけど、あの性格からして九条くんとは相性悪そう」
『南田だけじゃなく伊東さんもあそこの班の人達も苦手なんだ。無駄にエリート意識が高いっつうか。同じインテリ仏頂面でも神田の方がマシ』
伊東真守警部補はつり目に細いフレームの眼鏡をかけた男だ。論理的思考を得意とするインテリ刑事の彼は、聴取の際も分析したデータに基づいて理詰めで被疑者を追い詰めていく。
『初めて相棒が神田で良かったと思った。南田や伊東班の連中がバディだったら警視庁でやっていける自信ないな』
「さっきから褒められてるのかわからない微妙な言い方なんなの?」
『はいはい、怒らない怒らない。俺達も出るか』
美夜と九条の担当は栞里の交遊関係と当日の足取りの捜査。二人はまず彼女が失踪前最後に立ち寄った表参道のヘアサロンに向かった。
警察車両を青山通り沿いのパーキングに駐め、洒落た外観の路面店が軒を連ねる北青山の細道を行く。
スマートフォンの地図が指し示す目的地までもうすぐだ。
『俺は周辺で栞里の目撃情報がないか聞き込みしてくる』
「わかった。終わったら連絡する」
十字路で九条と別れて美夜は道を進んだ。三階建ての建物の二階がヘアサロンdearlyだ。
「いらっしゃいませ」
ガラス扉を開けてすぐに軽やかな声で迎えられる。月曜日の昼時、店内は年齢も様々な女性客で賑わっていた。
ネットに掲載された口コミによれば、表参道原宿近辺でもかなり評判の良い店らしい。
「店長さんはいらっしゃいますか? 先ほど連絡した神田です」
「あっ……栞里ちゃんの……」
美夜は他の客には見えない角度で控えめに警察手帳を提示した。狼狽える女性スタッフに気付いたもうひとりのスタッフが、接客中の男性に駆けていく。
最初に応対に出た女性はどうやらアシスタントのようだ。こちらの様子を気にしながらも、待っていた客を連れてシャンプー台に向かっていく彼女と入れ違いに洗練された雰囲気の男性が現れた。
『お待たせいたしました。店長の藍川です』
「お仕事中に申し訳ありません」
『こちらへどうぞ。お客さんに聞かせられる話ではないですから……』
藍川店長に案内されたのは店の奥のスタッフルーム。
『生憎《あいにく》、コーヒー豆を切らしていて……。ルイボスティーは飲まれますか? 女性スタッフが毎日煮出して作っている物です』
「ええ、お構い無く」
設置された小さな冷蔵庫から藍川が取り出したのはガラスの麦茶ポット。ガラス全体に手書きタッチの魚と海のイラストが描かれた、珍しいタイプのポットだ。
「九条くんと南田くんって警察学校の同期だったよね?」
『警察学校時代から何かと俺に突っかかってくるんだ。こっちは今も昔も気に障ることした覚えはねぇのに』
「私は挨拶程度しか話したことないけど、あの性格からして九条くんとは相性悪そう」
『南田だけじゃなく伊東さんもあそこの班の人達も苦手なんだ。無駄にエリート意識が高いっつうか。同じインテリ仏頂面でも神田の方がマシ』
伊東真守警部補はつり目に細いフレームの眼鏡をかけた男だ。論理的思考を得意とするインテリ刑事の彼は、聴取の際も分析したデータに基づいて理詰めで被疑者を追い詰めていく。
『初めて相棒が神田で良かったと思った。南田や伊東班の連中がバディだったら警視庁でやっていける自信ないな』
「さっきから褒められてるのかわからない微妙な言い方なんなの?」
『はいはい、怒らない怒らない。俺達も出るか』
美夜と九条の担当は栞里の交遊関係と当日の足取りの捜査。二人はまず彼女が失踪前最後に立ち寄った表参道のヘアサロンに向かった。
警察車両を青山通り沿いのパーキングに駐め、洒落た外観の路面店が軒を連ねる北青山の細道を行く。
スマートフォンの地図が指し示す目的地までもうすぐだ。
『俺は周辺で栞里の目撃情報がないか聞き込みしてくる』
「わかった。終わったら連絡する」
十字路で九条と別れて美夜は道を進んだ。三階建ての建物の二階がヘアサロンdearlyだ。
「いらっしゃいませ」
ガラス扉を開けてすぐに軽やかな声で迎えられる。月曜日の昼時、店内は年齢も様々な女性客で賑わっていた。
ネットに掲載された口コミによれば、表参道原宿近辺でもかなり評判の良い店らしい。
「店長さんはいらっしゃいますか? 先ほど連絡した神田です」
「あっ……栞里ちゃんの……」
美夜は他の客には見えない角度で控えめに警察手帳を提示した。狼狽える女性スタッフに気付いたもうひとりのスタッフが、接客中の男性に駆けていく。
最初に応対に出た女性はどうやらアシスタントのようだ。こちらの様子を気にしながらも、待っていた客を連れてシャンプー台に向かっていく彼女と入れ違いに洗練された雰囲気の男性が現れた。
『お待たせいたしました。店長の藍川です』
「お仕事中に申し訳ありません」
『こちらへどうぞ。お客さんに聞かせられる話ではないですから……』
藍川店長に案内されたのは店の奥のスタッフルーム。
『生憎《あいにく》、コーヒー豆を切らしていて……。ルイボスティーは飲まれますか? 女性スタッフが毎日煮出して作っている物です』
「ええ、お構い無く」
設置された小さな冷蔵庫から藍川が取り出したのはガラスの麦茶ポット。ガラス全体に手書きタッチの魚と海のイラストが描かれた、珍しいタイプのポットだ。