〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
『栞里ちゃんのあの写真は僕も見ました。うちのスタッフがスクショを撮っていたので……これですよね』

 藍川のスマホ画面にはインスタグラムのストーリーズに投稿された栞里の死体写真が映っている。

「写真は拡散させないようお願いします。SNSで面白半分にこの写真が拡散されているので」
『もちろんです。栞里ちゃんの尊厳がありますよね。スタッフにもSNSで流さないよう言ってあります』

冷えたルイボスティーのグラスの下にコースターを敷いたり、SNSでの閲覧数稼ぎよりも被害者の尊厳を優先させたりと、藍川は細やかな気配りの効く良識的な男だった。

 もうひとり、美夜達の後に続いて休憩室に入ってきた女性スタッフがいる。アシスタントに代わって藍川店長を呼びに行った女性だ。

『彼女がいつも栞里ちゃんを担当していた美容師です』
「玉置理世です」

藍川の紹介を受けて美夜は玉置理世と会釈を交わす。理世は美夜と同年代、ピンクブラウンの艶のある綺麗な髪に目を惹かれた。

「26日の栞里ちゃんのメニューはカットとトリートメント、それとサロモ撮影ですね」
「サロモ?」
「栞里ちゃんはうちのサロンモデルなんです。広告塔と言った方が伝わるのかな。SNSに載せる宣伝写真のモデルをしてもらっていました。こんな風に……」

 理世が所持するタブレット端末で見せてもらったのはdearlyの公式インスタグラム。インスタにはヘアアレンジやヘアカラーを施された女性達の笑顔や澄まし顔で埋め尽くされている。
投稿を5月まで遡ると、鳴沢栞里がサロンモデルを務めた写真も現れた。

「26日の来店当時の栞里さんはどんな様子でした? いつもと様子が違ったところなどは……」
「特に変わった様子はありません。でも栞里ちゃん、最近好きな人ができたみたいで。私が接客している間は恋愛の話で盛り上がって……。あとは深井さんと楽しそうにサロモの撮影していましたね」
『深井は僕の美容学校の同級生です。今はカメラマンをしている彼に店の宣伝写真を撮ってもらっているんですよ』

 7月26日の栞里の行動は渋谷区の明鏡大学で昼過ぎまで授業を受け、15時に表参道のdearlyに来店、髪のメンテナンスとサロンモデルの撮影を終え、18時に店を出た。
以降の彼女の行方は不明。藍川店長も理世も栞里のその後の予定は聞いていないと語った。

 真夏の聞き込みは身体に堪える。dearlyからの帰り道を歩くだけで汗が吹き出し、美夜は炎天下の街の片蔭《かたかげ》を追い求めた。
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