〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
港区のオフィス街は巨大なレゴブロックが乱立している。虎ノ門四丁目に所在する夏木コーポレーション本社ビルのエントランスに、どう見てもこの場にそぐわない服装を纏った少女が入り込んだ。
白くて艶のある肩と鎖骨を剥き出しにしたオフショルワンピースの裾から伸びる少女の若い生脚を、エントランスを行き交う男性社員が舐めるように見つめている。
サンダルの足音をカツカツと響かせて少女は受付カウンターを目指した。
「あのぉ、秘書課の木崎愁さんを呼んで欲しいんですけど」
「はぁ……?」
常に笑顔を絶やさない受付嬢も、さすがにこの場違いな珍客には困惑した。
「お客様のお名前は……」
「ごめんなさい。名前言うの忘れてた。夏木舞。会長の娘なの」
受付カウンターに二人いる受付嬢は二人して目を見合わせた。娘? どうする? と、受付嬢の戸惑いのひそひそ話が聞こえる。
身分を明かして相手が狼狽え、かしずく瞬間は最高に気持ちがいい。いつでも舞台の中央でスポットライトを浴びていたい舞は、フロア中の視線がすべて自分に向いている心地よさに酔いしれていた。
「あっ! 愁さん、みぃーつけたっ! 愁さーん!」
困惑の受付嬢を放って、エレベーターホールに現れた木崎愁に向けて舞は両手を振り回す。今すぐ愁に抱き着きに行きたいのにセキュリティゲートがあるため、これ以上先には進めない。
『舞。何でここにいる?』
「夏休みの宿題の社会科見学?」
『そんな宿題があるとは聞いてないぞ。会社の見学がしたいなら事前にアポをとれ』
セキュリティゲートを抜けてこちら側に出てきた愁にようやく抱き着けた。
企業のエントランスでサラリーマンと十代の少女が抱擁する様は人々の興味を集める。受付嬢も社員達も、愁と舞に好奇の眼差しを向けていた。
「パパはいつ来てもいいって言ってたよ。ねぇねぇ愁さぁーん。会社の案内してよ」
『会長の言葉を真に受けるな。会社は子供が遊びに来る場所じゃない。帰りなさい』
甘える舞に愁が返した一言は、舞が予期しない一言だった。彼は抱き着く舞を身体から引き離し、さらに諭す。
『舞が本気で会社の見学がしたいなら俺か会長にアポイントをとってから、TPOに合った服装で訪問しなさい。そんな肩や脚を出した服装で来るんじゃない』
「愁さん……」
まさかこんな風に冷たくあしらわれるとは思わなかった。普段の愁はなんでもワガママを聞いてくれる、甘えたい時に甘やかしてくれる優しい人なのに。
セキュリティゲートの内側にいた女が愁の隣に並んだ。先ほど愁と共にエレベーターを降りてきた女だ。
「木崎さん、そんなきつく言わなくても……。ちょうど手が空きましたし、私が舞ちゃんを案内しますよ」
『申し訳ない。あと30分で定時だから舞の案内を終えたら帰っていいよ。……舞、くれぐれも迷惑かけるなよ』
愁と女で勝手に取り決められた会社案内。一度も振り返らずに舞に背中を向けて去る愁が、遠い存在に感じて悲しくなった。
白くて艶のある肩と鎖骨を剥き出しにしたオフショルワンピースの裾から伸びる少女の若い生脚を、エントランスを行き交う男性社員が舐めるように見つめている。
サンダルの足音をカツカツと響かせて少女は受付カウンターを目指した。
「あのぉ、秘書課の木崎愁さんを呼んで欲しいんですけど」
「はぁ……?」
常に笑顔を絶やさない受付嬢も、さすがにこの場違いな珍客には困惑した。
「お客様のお名前は……」
「ごめんなさい。名前言うの忘れてた。夏木舞。会長の娘なの」
受付カウンターに二人いる受付嬢は二人して目を見合わせた。娘? どうする? と、受付嬢の戸惑いのひそひそ話が聞こえる。
身分を明かして相手が狼狽え、かしずく瞬間は最高に気持ちがいい。いつでも舞台の中央でスポットライトを浴びていたい舞は、フロア中の視線がすべて自分に向いている心地よさに酔いしれていた。
「あっ! 愁さん、みぃーつけたっ! 愁さーん!」
困惑の受付嬢を放って、エレベーターホールに現れた木崎愁に向けて舞は両手を振り回す。今すぐ愁に抱き着きに行きたいのにセキュリティゲートがあるため、これ以上先には進めない。
『舞。何でここにいる?』
「夏休みの宿題の社会科見学?」
『そんな宿題があるとは聞いてないぞ。会社の見学がしたいなら事前にアポをとれ』
セキュリティゲートを抜けてこちら側に出てきた愁にようやく抱き着けた。
企業のエントランスでサラリーマンと十代の少女が抱擁する様は人々の興味を集める。受付嬢も社員達も、愁と舞に好奇の眼差しを向けていた。
「パパはいつ来てもいいって言ってたよ。ねぇねぇ愁さぁーん。会社の案内してよ」
『会長の言葉を真に受けるな。会社は子供が遊びに来る場所じゃない。帰りなさい』
甘える舞に愁が返した一言は、舞が予期しない一言だった。彼は抱き着く舞を身体から引き離し、さらに諭す。
『舞が本気で会社の見学がしたいなら俺か会長にアポイントをとってから、TPOに合った服装で訪問しなさい。そんな肩や脚を出した服装で来るんじゃない』
「愁さん……」
まさかこんな風に冷たくあしらわれるとは思わなかった。普段の愁はなんでもワガママを聞いてくれる、甘えたい時に甘やかしてくれる優しい人なのに。
セキュリティゲートの内側にいた女が愁の隣に並んだ。先ほど愁と共にエレベーターを降りてきた女だ。
「木崎さん、そんなきつく言わなくても……。ちょうど手が空きましたし、私が舞ちゃんを案内しますよ」
『申し訳ない。あと30分で定時だから舞の案内を終えたら帰っていいよ。……舞、くれぐれも迷惑かけるなよ』
愁と女で勝手に取り決められた会社案内。一度も振り返らずに舞に背中を向けて去る愁が、遠い存在に感じて悲しくなった。