〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
日比谷公園の前で車を降りた九条は、小雨に打たれる日比谷通りを小走りに駆けた。
大橋雪枝との待ち合わせ場所は日比谷通り沿いのカフェ。帝国ホテルの前を通って、カフェが入るビルの軒下で傘を畳む。
オレンジとブラウンでまとめられたシックな装いの店内は千代田区の立地のためか、若年層よりも上の世代の姿が多い。
その中でひとりで席に着く雪枝は大人の中に子どもがひとりで紛れているような、心許《こころもと》ない顔でカフェオレを飲んでいた。
『ごめんね、予定より遅くなった』
「大丈夫です。お仕事忙しいのに無理言ってすみません」
ここが渋谷か原宿のカフェならば、雪枝と同世代の男女が席を占めていて居心地の悪さを感じることもなかっただろう。
しかし会う場所に警視庁の側を提案したのは雪枝だった。
雪枝は何故か、高校生の遊び場である渋谷や原宿には行きたがらない。7月に会った時も場所は雪枝の自宅が近い五反田《ごたんだ》駅前のファミレスだった。
『非番だから本当は今日休みなんだけどね』
「大きな事件があったんですか?」
『前から抱えてるちょっと厄介な事件がさらに厄介なことになってね。参ったよ』
雪枝はいつも事件の話に興味を示す。九条がどんな事件を扱っているのか詳しく聞きたがるが、守秘義務があるため雪枝の期待には応えられない。
事件の話を軽く流して九条はホットコーヒーを注文した。注文の合間に雪枝が先に頼んだミルクティーとレアチーズケーキがテーブルに到着する。
ミルクティーとケーキを前にしても雪枝はどちらの食器にも触れない。うつむいたり視線を上げて九条の顔色を窺ったりと、そわそわと落ち着かない様子だった。
『紅茶冷めちゃうよ。ケーキも俺に構わずに食べていいよ』
「あの……」
『どうした?』
「インスタに載せるケーキの写真を撮って欲しいんです。だけど顔は写さないでください。ケーキがちゃんと写るように……」
気恥ずかしそうに自分のスマートフォンを差し出す雪枝の意図を彼は理解した。年齢層の高いこの店内でさえ、テーブルのあちらこちらで大人達がコーヒーやケーキをスマホのファインダー越しに覗いている。
大橋雪枝との待ち合わせ場所は日比谷通り沿いのカフェ。帝国ホテルの前を通って、カフェが入るビルの軒下で傘を畳む。
オレンジとブラウンでまとめられたシックな装いの店内は千代田区の立地のためか、若年層よりも上の世代の姿が多い。
その中でひとりで席に着く雪枝は大人の中に子どもがひとりで紛れているような、心許《こころもと》ない顔でカフェオレを飲んでいた。
『ごめんね、予定より遅くなった』
「大丈夫です。お仕事忙しいのに無理言ってすみません」
ここが渋谷か原宿のカフェならば、雪枝と同世代の男女が席を占めていて居心地の悪さを感じることもなかっただろう。
しかし会う場所に警視庁の側を提案したのは雪枝だった。
雪枝は何故か、高校生の遊び場である渋谷や原宿には行きたがらない。7月に会った時も場所は雪枝の自宅が近い五反田《ごたんだ》駅前のファミレスだった。
『非番だから本当は今日休みなんだけどね』
「大きな事件があったんですか?」
『前から抱えてるちょっと厄介な事件がさらに厄介なことになってね。参ったよ』
雪枝はいつも事件の話に興味を示す。九条がどんな事件を扱っているのか詳しく聞きたがるが、守秘義務があるため雪枝の期待には応えられない。
事件の話を軽く流して九条はホットコーヒーを注文した。注文の合間に雪枝が先に頼んだミルクティーとレアチーズケーキがテーブルに到着する。
ミルクティーとケーキを前にしても雪枝はどちらの食器にも触れない。うつむいたり視線を上げて九条の顔色を窺ったりと、そわそわと落ち着かない様子だった。
『紅茶冷めちゃうよ。ケーキも俺に構わずに食べていいよ』
「あの……」
『どうした?』
「インスタに載せるケーキの写真を撮って欲しいんです。だけど顔は写さないでください。ケーキがちゃんと写るように……」
気恥ずかしそうに自分のスマートフォンを差し出す雪枝の意図を彼は理解した。年齢層の高いこの店内でさえ、テーブルのあちらこちらで大人達がコーヒーやケーキをスマホのファインダー越しに覗いている。