〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
『京介さん達が高校の時にイタリア留学をかけた試合があってね。二人の試合を観客席から食い入るように見てたよ。隼人さんはその試合を最後にサッカーを引退してしまったから、俺が隼人さんの試合を見れたのはそれが最後だった』

 コーヒーが運ばれても尚、九条のサッカー談義は続く。
京介と隼人がどれだけ凄いサッカー選手なのか、嬉々として雪枝に語る九条と淑やかにケーキを口に運びつつ彼の話に耳を傾ける雪枝の構図は、どちらが大人でどちらが子どもかわからない。

『こうやって憧れの人の今を覗けるインスタって凄いね。京介さんと隼人さんのインスタが見られるなら俺もインスタ始めてみようかな……』
「もし始めたらアカウント教えてください。フォローします」
『ははっ。女子高生とインスタ繋がってたら友達に根掘り葉掘り探られそうだよ』

 サッカー話も一段落ついた頃には、九条のコーヒーも雪枝のミルクティーも半分以下の量になっていた。彼女のレアチーズケーキも泡沫の欠片しか残っていない。

『雪枝ちゃん、この前の電話の時に何か話しかけたよね。何の話だった?』
「……大した話じゃないんです」

雪枝が話せずにいることを無理に聞き出そうとは思わない。それではまるで取り調べだ。
けれど話したいのに話せない、言い出せない、それは本人にとっても苦しい。

『違ったらごめんね。話したかったのは学校の友達のこと?』
「……公立育ちの私が私立に行くと価値観の違いもあって、色々とついていけなかったりもするんです。父は会社の重役をしていても社長ではないですし、家もお金持ちでもなければお嬢様でもないので」

 公立の学校しか知らない九条には、私立に通う人間の気苦労や悩みを本当の意味では理解はできない。

私立の学校にありがちな富裕層の上流家庭と中流家庭の金銭的な格差。中流家庭の生徒が上流家庭の生徒の金銭感覚に合わせようとすれば、必ずどこかで無理が生じる。
< 54 / 92 >

この作品をシェア

pagetop