〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 小遣い稼ぎで安易にパパ活やママ活に手を出す高校生もいると聞く。けれど家が金持ちではないと雪枝は言うが、父親が企業の重役勤めならば平社員のサラリーマンの平均以上の収入はある。

彼女が金銭面の問題を抱えているとは思えない。雪枝の友達付き合いの妨げが金ではないとすれば、他に何があるだろう?

「でもこうして九条さんとお話するだけで元気になれますし、最近は匿名のチャットアプリでも話を聞いてもらってるんです」
『チャットアプリ?』
「ニックネームを登録するだけで使える無料のアプリです。独り言感覚でルームで呟いていると誰かが話しかけてくれて、チャット機能でやりとりしたり、複数で通話もできます。このアプリです」

 雪枝に見せてもらった匿名チャットアプリのアイコンは九条も捜査の過程で何度か目にしている。
チャットアプリの存在自体に九条は懐疑的だった。SNSやチャットアプリを通して築く人間関係の怖さは、人の実態が見えない点。

 性別も年齢も職業もいくらでも誤魔化せる。
ネット上で相談に乗ってくれていた優しい相手が実は手配中の殺人犯だった、実は裏社会の人間だった。職業柄、真っ先に未成年者の使用によって起こりうる様々なリスクや犯罪を想像してしまう。

『くれぐれも変な人には注意してね。会話でイイ人そうに見せていきなり、パンツ見せろ裸の写真送れって言ってくる変態もいる。そういう人がいたらすぐに俺に連絡して』
「そんな人いませんよぉ。そこで知り合った馴染みの人達は皆優しいです。沢山相談に乗ってくれて、本名も知らなくて会ったことはないけど友達みたいな感覚ですね」

 顔も名前も知らないチャットアプリで知り合った人間を友達と呼ぶ雪枝は、リアルの学校生活を語る時よりも生き生きとしていた。

それも彼女なりに見つけた人付き合いの手段だろう。青春時代が楽しい思い出で溢れるなら、匿名のチャットアプリで作る友達もありかもしれない。
九条が腑に落ちなくても雪枝の人生だ。彼女の自由にすればいい。

(でも何か引っ掛かるんだよな……)

 チャットアプリの話をする雪枝の顔も口振りも、雪枝の本心もすべてがぼやけて見えるのは疲れた目の霞《かす》みのせい?

心の曇り空は晴れなかった。
街を濡らす雨もまだ止まなかった。
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