〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 インスタグラムの中で綺麗な笑顔を残し続ける彼女達の最期の姿。
死体をアートにされたあげくに土に埋められ、若くて美麗な容姿は朽ちて腐り、やがては骨だけとなる。
そんな姿を彼女達は誰にも見られたくないだろう。

「松岡さんが飲んだと思われるアイスティーが保存されていた麦茶ポットの中身からも、コンバラトキシンが確認できました。鈴蘭の毒を抽出した水で水出しのアイスティーを作った深井は、それを松岡さんに出したのでしょう。鈴蘭は花瓶に生けるだけでも花瓶の水に毒が溶け込みますよね」

 この世には毒が溢れている。トリカブトやフグの毒といった名の知れた毒以外の知識を、人はどこで得る?

鈴蘭に毒があると知る人間がどれだけいる? そんなことは、少なくとも日本の義務教育の過程では誰も教えてはくれない。

『俺は実家が花屋なので鈴蘭の毒の怖さは知っていますが、意外と知らない人もいますよね。猫を飼っている家に鈴蘭が生けてあると、こちらがハラハラしますよ。猫って草を食べる習性があるでしょう?』

 埼玉の祖母も、飼い猫が草や茎を口にしても害のない植物を選んで庭に植えていた。美夜も結婚式で受け取ったブーケの花がひまわりだったから祖母に渡したのだ。

ブーケの花がもしも鈴蘭だったら祖母の家に置いていかない。間違って猫のちゃちゃ丸が鈴蘭を口にしてしまえば、中毒症状を起こして最悪の場合は死んでしまう。

 無知は時に生命を奪う。
無知は恥ではない。無知は凶器なのだ。

「毒の水で作られたアイスティーを疑いもなく飲んだ松岡さんも、おそらくは鳴沢栞里さんと小松原皐月さんもアイスティーに溶け込んだ致死量を越えるコンバラトキシンを摂取して亡くなった。そして深井もコンバラトキシンを摂取して死亡しました。三人の女性を殺したのは深井で間違いないでしょう。ですが、深井はあなたが殺したんですよね?」

 店の奥に設置されたシャンプー台の側でボトルの中身を詰め替えていた藍川は、ビニール手袋を嵌めた手を休めた。美夜を見据える彼の瞳は冷たく笑っている。

『俺が深井を殺した証拠はあるんですか?』
「鈴蘭の最盛期は初夏です。真夏に鈴蘭は手に入りにくい。でも私が先月ここを訪れた時には、あそこの壁に鈴蘭のドライフラワーが吊るされていました」

 美夜は玉置理世に前髪のカットを受けた時に座っていた席を指差す。臨時休業中の今は、木目の壁には何の装飾も施されていない。

しかし先月訪れた時はあの席の鏡の横に、確かに鈴蘭のドライフラワーで作られたスワッグがかけられていたのだ。
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