〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
藍川の挙動にも美夜は臆せず話を続けた。
「ガラスポットのイラストを描かれた宮本さんにも現物を確認していただきました。彼は深井の自宅にあったガラスポットは創業者一族のポットではないと断言しています。今ここにあるこのガラスポットは数字入り……これは深井貴明が所有していた物です」
殺害に使用するアイスティーはプラスチックの麦茶ボトルに、自身が普段飲むアイスティーは毒要りと間違えないように魚の絵柄のガラスポットに。
そうやって深井がボトルの用途を分けていたとしたら、魚の絵柄のガラスポットのアイスティーは安全な飲み物だと彼は思い込む。
「深井の友人のあなたは当然、深井の家にも行かれているでしょう。あなたは深井がアイスティーをこのガラスポットに容れていると知っていた。一昨日、深井の自宅に行かれたのでは? その時に深井のガラスポットと、あらかじめ毒要りのアイスティーを作って容れておいたご自分のガラスポットをすり替えたんですよね?」
深井の思い込みと絵に隠れた西暦の一点を除けば同じ絵柄、同じ材質であるガラスポットを利用して、藍川はトロイの木馬を仕掛けた。
8日の午後、深井は松岡優羽を毒殺後に彼女の死体にアートを施し、またしても鳴沢栞里のスマートフォンで写真を撮影した。
死後硬直が始まっている優羽の身体を、かつて祖父が使用していた車椅子に乗せてリビングに面した庭に運んだ彼は死体を庭に埋める。
事件当時の目黒区の天気は昼まで雨、夕方からは曇りのち晴れ。雨で土が柔らかくなっていたとは言え、土を掘って死後硬直の最中の人間を埋める作業はかなりの重労働だ。
ひと仕事を終えた喉の渇きを潤そうと彼が口にしたアイスティーは、藍川が仕掛けたトロイの木馬。
自分が犯した罪と同じ方法で友人に殺されるとは、深井は露《つゆ》ほども思っていなかった。
『前にあなたが店に来た時、コーヒー豆を切らしていなければ俺が深井と揃いの非売品を持っていると、あなたには気付かれなかったのにな』
「そうですね。ここでルイボスティーをいただかなければ、深井が本来持っていたポットの行方はわからないままでした」
『……計画はあなたが店に来たあの日から狂っていたんだろうな』
またボトルの底が悲鳴を上げた。何度も棚に叩きつけられたシャンプーボトルは底の形が変形しつつある。
藍川の豹変を察知した美夜は身構えた。たった今、藍川の手を離れたシャンプーボトルがどの空中経路を通ってどこに着地するか見極めた彼女は、軽い身のこなしでボトルの衝突を回避する。
投げつけられたシャンプーボトルは風を切って壁に激突した。衝撃でボトルの中身が床に飛び散っている。
ガラスポットを抱える美夜めがけて目を血走らせた藍川が突進してくる。藍川の狙いは殺人の証拠となるこのガラスポットだ。
ポットを割ってしまえば証拠隠滅になると思っているのだろう。もしポットが割れても、美夜の胸元のカメラを通して警視庁のデータにポットを写した映像が記録されている。
「ガラスポットのイラストを描かれた宮本さんにも現物を確認していただきました。彼は深井の自宅にあったガラスポットは創業者一族のポットではないと断言しています。今ここにあるこのガラスポットは数字入り……これは深井貴明が所有していた物です」
殺害に使用するアイスティーはプラスチックの麦茶ボトルに、自身が普段飲むアイスティーは毒要りと間違えないように魚の絵柄のガラスポットに。
そうやって深井がボトルの用途を分けていたとしたら、魚の絵柄のガラスポットのアイスティーは安全な飲み物だと彼は思い込む。
「深井の友人のあなたは当然、深井の家にも行かれているでしょう。あなたは深井がアイスティーをこのガラスポットに容れていると知っていた。一昨日、深井の自宅に行かれたのでは? その時に深井のガラスポットと、あらかじめ毒要りのアイスティーを作って容れておいたご自分のガラスポットをすり替えたんですよね?」
深井の思い込みと絵に隠れた西暦の一点を除けば同じ絵柄、同じ材質であるガラスポットを利用して、藍川はトロイの木馬を仕掛けた。
8日の午後、深井は松岡優羽を毒殺後に彼女の死体にアートを施し、またしても鳴沢栞里のスマートフォンで写真を撮影した。
死後硬直が始まっている優羽の身体を、かつて祖父が使用していた車椅子に乗せてリビングに面した庭に運んだ彼は死体を庭に埋める。
事件当時の目黒区の天気は昼まで雨、夕方からは曇りのち晴れ。雨で土が柔らかくなっていたとは言え、土を掘って死後硬直の最中の人間を埋める作業はかなりの重労働だ。
ひと仕事を終えた喉の渇きを潤そうと彼が口にしたアイスティーは、藍川が仕掛けたトロイの木馬。
自分が犯した罪と同じ方法で友人に殺されるとは、深井は露《つゆ》ほども思っていなかった。
『前にあなたが店に来た時、コーヒー豆を切らしていなければ俺が深井と揃いの非売品を持っていると、あなたには気付かれなかったのにな』
「そうですね。ここでルイボスティーをいただかなければ、深井が本来持っていたポットの行方はわからないままでした」
『……計画はあなたが店に来たあの日から狂っていたんだろうな』
またボトルの底が悲鳴を上げた。何度も棚に叩きつけられたシャンプーボトルは底の形が変形しつつある。
藍川の豹変を察知した美夜は身構えた。たった今、藍川の手を離れたシャンプーボトルがどの空中経路を通ってどこに着地するか見極めた彼女は、軽い身のこなしでボトルの衝突を回避する。
投げつけられたシャンプーボトルは風を切って壁に激突した。衝撃でボトルの中身が床に飛び散っている。
ガラスポットを抱える美夜めがけて目を血走らせた藍川が突進してくる。藍川の狙いは殺人の証拠となるこのガラスポットだ。
ポットを割ってしまえば証拠隠滅になると思っているのだろう。もしポットが割れても、美夜の胸元のカメラを通して警視庁のデータにポットを写した映像が記録されている。