〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
警視庁に連行される頃には藍川龍平も落ち着きを取り戻していた。鼻の下に残る鼻血の痕跡を気にしながら、彼は美夜が進める取り調べに応じる。
『昔から深井は死体の写真ばっかり撮っていたんですよ。虫や車に轢かれて道端で死んでる猫やネズミの死骸に笑顔でシャッター向けて……。生きてるものには興味が無さげでした。親にはそういう性癖を隠してたけど、元々あいつは頭が狂ってる人間なんですよ』
だらんと肩と腕の力を抜いた藍川は魂の抜けた脱け殻。光のない暗い瞳を足元に向けて、藍川はとつとつと供述を始めた。
『でも深井が生き物で唯一興味を持っていたのが子どもでした。それも生理が始まってなさそうな、十歳くらいまでの女の子にそそられるって言っていましたね』
「深井が高校時代に起こした小学生へのわいせつ事件は当時の新聞やニュースでも報道はされなかった。だけど友人のあなたは事件を知っていた」
『もちろん知っていますよ。父親に嘘泣きで泣きついて全部金で解決してもらったって……。あいつの性癖がロリコンの死体愛好家だと知った高校の時から、いつか利用できると思ったんです。死体を使ったアート写真の話を持ちかければ深井は絶対に話に乗ってくる』
深井の自宅の一室には異様な光景が広がっていた。
藍川の言うように、死んだ猫やネズミ、潰れた虫の死体写真が壁一面に貼り付けられ、さらには幼稚園から小学校低学年までの幼女や女子児童の隠し撮り写真も深井のアートコレクションの一部になっていた。
深井にはネクロフィリアとペドフィリアの気質があったと思われる。
わいせつ事件を契機に深井の性癖を知った彼の両親は深井を精神科に通院させたが、ほどなくして深井は通院を拒否。深井は自分の性癖が社会的には許容されないものと認識した上で、それを治そうとはまったく思っていなかったようだ。
一連の女性インスタグラマーを狙った殺人も、深井にとってはアートのため。そこに罪悪感はまるでない。
深井の死体アートを見た時から美夜が感じていた寒気は、人間を血の通った生き物として扱わない男の残忍な欲望が透けて見えていたせいだろう。
「深井は死体のアート写真を撮りたかったようだけど、あなたの動機は何?」
『……俺は深井がずっと嫌いだった。俺の真似して美容専門に入ったくせに、美容師の技術もセンスも深井は俺より上だった。美容学生時代もコンテストで深井に勝ったことがなかった。いつも深井が入賞して俺は賞にかすりもしない』
友人への屈折した感情を吐露する藍川の震える声には、あきらかな憎しみがこもっている。
『だけどあいつは、いい腕があるのに自分は美容師に向いてないとあっさり見切りをつけてカメラマンになりやがった。自分がどれだけ恵まれた側にいるか、深井はちっともわかっていない』
皮肉にも人と違う性癖を持つ者は、人より秀でた部分を持つ。過去に傑作を産み出した日本や海外の芸術家や小説家も、性癖がノーマルとは言い難い人物が多い。
『昔から深井は死体の写真ばっかり撮っていたんですよ。虫や車に轢かれて道端で死んでる猫やネズミの死骸に笑顔でシャッター向けて……。生きてるものには興味が無さげでした。親にはそういう性癖を隠してたけど、元々あいつは頭が狂ってる人間なんですよ』
だらんと肩と腕の力を抜いた藍川は魂の抜けた脱け殻。光のない暗い瞳を足元に向けて、藍川はとつとつと供述を始めた。
『でも深井が生き物で唯一興味を持っていたのが子どもでした。それも生理が始まってなさそうな、十歳くらいまでの女の子にそそられるって言っていましたね』
「深井が高校時代に起こした小学生へのわいせつ事件は当時の新聞やニュースでも報道はされなかった。だけど友人のあなたは事件を知っていた」
『もちろん知っていますよ。父親に嘘泣きで泣きついて全部金で解決してもらったって……。あいつの性癖がロリコンの死体愛好家だと知った高校の時から、いつか利用できると思ったんです。死体を使ったアート写真の話を持ちかければ深井は絶対に話に乗ってくる』
深井の自宅の一室には異様な光景が広がっていた。
藍川の言うように、死んだ猫やネズミ、潰れた虫の死体写真が壁一面に貼り付けられ、さらには幼稚園から小学校低学年までの幼女や女子児童の隠し撮り写真も深井のアートコレクションの一部になっていた。
深井にはネクロフィリアとペドフィリアの気質があったと思われる。
わいせつ事件を契機に深井の性癖を知った彼の両親は深井を精神科に通院させたが、ほどなくして深井は通院を拒否。深井は自分の性癖が社会的には許容されないものと認識した上で、それを治そうとはまったく思っていなかったようだ。
一連の女性インスタグラマーを狙った殺人も、深井にとってはアートのため。そこに罪悪感はまるでない。
深井の死体アートを見た時から美夜が感じていた寒気は、人間を血の通った生き物として扱わない男の残忍な欲望が透けて見えていたせいだろう。
「深井は死体のアート写真を撮りたかったようだけど、あなたの動機は何?」
『……俺は深井がずっと嫌いだった。俺の真似して美容専門に入ったくせに、美容師の技術もセンスも深井は俺より上だった。美容学生時代もコンテストで深井に勝ったことがなかった。いつも深井が入賞して俺は賞にかすりもしない』
友人への屈折した感情を吐露する藍川の震える声には、あきらかな憎しみがこもっている。
『だけどあいつは、いい腕があるのに自分は美容師に向いてないとあっさり見切りをつけてカメラマンになりやがった。自分がどれだけ恵まれた側にいるか、深井はちっともわかっていない』
皮肉にも人と違う性癖を持つ者は、人より秀でた部分を持つ。過去に傑作を産み出した日本や海外の芸術家や小説家も、性癖がノーマルとは言い難い人物が多い。