〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 幼女趣味で死体愛好家の深井の技術とセンスは、普遍的で努力家の藍川を上回ってしまった。

『深井は俺が持っているものを欲しがるんです。幼女しか興味がないくせに、あいつは理世に言い寄り始めた。高校の頃からそうなんだ。俺が好きになった女を深井はことごとく奪い取る。金をちらつかせれば簡単に女が釣れると思っているんですよ。……理世は上手く釣れなかったみたいですが』

 藍川が長年溜め込んでいた深井への屈折した感情が爆発したきっかけは、玉置理世の存在だった。

藍川との関係は自分の一方的な片想いだったと、江東区看護師殺人の取り調べで理世は悲しげに呟いていた。けれど藍川にとっての真実はどうやら違うらしい。

『女が本当に可愛いのは小学生まで、本当に綺麗なのはハタチまでだと深井は饒舌に言っていました。ハタチを過ぎたら肌も身体もどんどん醜く汚く、中身はお喋りなオバサンになる。死体アートの話を持ちかけた時に、これで彼女達の時を止めて永遠に綺麗なまま写真に閉じ込められると喜んでいましたよ』

 鳴沢栞里の死体に添えられた造花の金魚草の意味に美夜は思考を巡らせる。

金魚草の花言葉はお喋り、でしゃばり、誤魔化し。女への皮肉にも捉えられる花言葉で、深井は十九歳の栞里を飾り付けた。

 確かに女はお喋りな生き物だ。それも年齢を重ねるほど、女はどんどん口を閉じなくなる。
友人の結婚式で、久方ぶりに再会した友人達の止まらないお喋りには同性の美夜も辟易した。

 確かに女が何もしなくても綺麗なのは二十歳までかもしれない。何もしなくても張りのある肌、何もしなくても艶やかな髪は若さの特権。

二十五を過ぎれば次の三十代に向けて、三十五を過ぎれば四十代に向けて、少しずつ肌や髪質、身体の変化も見えてくる。
子どもを産めば体型も変わる。生まなくても胸や尻は重力に負けて垂れてくる。

 人は時間の変化には逆らえない。それでも老いを受け入れて、女は生きていく。
時を止めて永遠に綺麗なままでなんて、身勝手な男がジャッジをして勝手に女の時間を止めないでもらいたい。

 藍川も歪んでいる。深井も歪んでいる。
何一つ動機が理解できない、男の嫉妬と欲望の産物のアート殺人に利用された三人の女性が不憫でならない。

「被害者三人をアート殺人のターゲットに選んだ理由は? 三人ともあなたの店の大事なお客でしょう?」
『俺は客とは恋愛関係にならないと決めています。でも美容師に恋愛感情を抱く客は結構いるんですよ。鏡越しに目を合わせて話していれば、相手の好意はわかります。ターゲットに選んだ三人は俺に好意を持っていたんです』

 藍川は異性の容姿に関心が持てない美夜にはいまいち理解不能な“イケメン”の部類にいる男だ。

三十代前半で早くも老け込む男がいる一方で、藍川の見た目は二十代でも通用する若々しさがある。洒落たツーブロックの髪はアッシュ系の色に染まり、笑った時に覗く白い歯は清潔感の象徴。

おまけに職業柄、話術に長けている。聞き上手に話し上手。取り調べですら彼の話は理路整然としている。

 こんな男に鏡越しに優しく笑いかけられたら、客が好意を抱いてしまうのも必然かもしれない。美夜には理解できないが。
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