〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
栞里の事件を通じて垣間見えた鳴沢家は母親が過干渉、父親は放任に感じられた。実里が実家を出て医者をしている伯父夫婦の家に同居している点も、両親よりも伯父夫婦との関係が良好な事実が窺える。
「男性恐怖症で彼氏を作れない理由もこんなことをしてしまう理由も、あの子は察してくれていました。私が外に出られないから、栞里が代わりに色んな所に出掛けた写真をインスタに載せてくれるんです。こんな綺麗な景色があったよ、可愛いカフェができたよって、私に外の世界を見せてくれました。栞里のインスタを眺めるのが何よりの楽しみだった」
長袖の隙間から見えた彼女の手首には痛々しいリストカットの痕。実里が長年抱えるPTSDに配慮して、彼女に事情を訊ねる役目は女性刑事に限っている。
見知らぬ男性との接触を極度に怖がる実里は、一人で電車にも乗れない。仕事は在宅で行う英語の翻訳作業。
日の光を浴びない彼女の肌は透き通るような青白さだった。
「後悔しています。私が栞里に、私を襲った悪魔の名前をちゃんと教えていたら……栞里は深井がその悪魔だと気付いたかもしれない。栞里のインスタに投稿された、深井が撮ったあの子の写真を見ると気がおかしくなります」
実里の手にある彼女のスマートフォンは妹の生きた痕跡と繋がっている。
インスタグラムには今でも笑顔の鳴沢栞里が生き続けていた。しかし栞里の笑顔の向こうには、ファインダーを覗いてほくそ笑む悪魔がいる。
深井が撮影した栞里の写真を削除したいのにどうしても消せないと、震える指が告げている。インスタグラムの中に生きる栞里の顔の上に実里の涙が溢れ落ちた。
「私の人生を狂わせて、大切な妹の命を奪ったあの悪魔を殺してくれた藍川さんには感謝しています。藍川さんが殺さなかったら深井は私が殺していました。……こんな感情を本当は刑事さんに打ち明けてはいけないのでしょうね」
──“殺してくれてありがとう”──
またしても美夜の前に出現した、否定も肯定もできない殺意は彼女を沈黙させる。
実里に芽生えた殺意は警察官として容認できるものではないのに、美夜にはすすり泣く実里の背中を黙ってさすることしかできなかった。
「男性恐怖症で彼氏を作れない理由もこんなことをしてしまう理由も、あの子は察してくれていました。私が外に出られないから、栞里が代わりに色んな所に出掛けた写真をインスタに載せてくれるんです。こんな綺麗な景色があったよ、可愛いカフェができたよって、私に外の世界を見せてくれました。栞里のインスタを眺めるのが何よりの楽しみだった」
長袖の隙間から見えた彼女の手首には痛々しいリストカットの痕。実里が長年抱えるPTSDに配慮して、彼女に事情を訊ねる役目は女性刑事に限っている。
見知らぬ男性との接触を極度に怖がる実里は、一人で電車にも乗れない。仕事は在宅で行う英語の翻訳作業。
日の光を浴びない彼女の肌は透き通るような青白さだった。
「後悔しています。私が栞里に、私を襲った悪魔の名前をちゃんと教えていたら……栞里は深井がその悪魔だと気付いたかもしれない。栞里のインスタに投稿された、深井が撮ったあの子の写真を見ると気がおかしくなります」
実里の手にある彼女のスマートフォンは妹の生きた痕跡と繋がっている。
インスタグラムには今でも笑顔の鳴沢栞里が生き続けていた。しかし栞里の笑顔の向こうには、ファインダーを覗いてほくそ笑む悪魔がいる。
深井が撮影した栞里の写真を削除したいのにどうしても消せないと、震える指が告げている。インスタグラムの中に生きる栞里の顔の上に実里の涙が溢れ落ちた。
「私の人生を狂わせて、大切な妹の命を奪ったあの悪魔を殺してくれた藍川さんには感謝しています。藍川さんが殺さなかったら深井は私が殺していました。……こんな感情を本当は刑事さんに打ち明けてはいけないのでしょうね」
──“殺してくれてありがとう”──
またしても美夜の前に出現した、否定も肯定もできない殺意は彼女を沈黙させる。
実里に芽生えた殺意は警察官として容認できるものではないのに、美夜にはすすり泣く実里の背中を黙ってさすることしかできなかった。