〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
花火が鳴り響く夜道に、二人分の足音が重なる。氷川坂から転坂に入った美夜と愁は、登りとなった転坂の傾斜にサンダルを滑らせた。
2時間前にこの坂道を下った時は西側に赤い太陽が落ちていた。今はその場所には、夜にしか見えない花が咲き乱れている。
「舞ちゃんをきっぱり振るなんて意外でした」
『未成年と恋愛する気はねぇよ』
「それにしたってあの振り方は残酷ですよ」
『優しい言葉で曖昧に振って未来に期待を持たせる方が酷だろ? 舞を恋愛対象に見ることはない。一生な』
転坂を登りきって平坦な道に入ると、道沿いの背の高いマンションやビルのベランダに人の影をちらほら見かけた。花火の音に紛れてどこかの家の赤ん坊の泣き声も聴こえる。
きっと今頃、舞も泣いている。自分の存在によって少女の心を傷付けた言い様のない罪悪感は、数歩先を歩く愁の背中が視界に入るたびに大きく膨らんだ。
辿り着いた赤坂氷川公園には夜空に咲く花を楽しむ人々が集まっている。
送ってもらうのもこの辺りまでで構わないのに、此処《ここ》を立ち去りがたい空気があるのは花火に背を向けたくないから?
『今度ムゲットで何か奢る』
「それは食事の約束?」
『ムゲットは飯を食う店じゃなかったか?』
「勘違いされるのが嫌だから、彼女役が私になったんですよね?」
『深い意味はない。ただの礼だ』
木崎愁は残酷で優しい男だ。
此処を立ち去れない美夜の想いを知ってか知らずか、愁から触れ合わせた指先が美夜を絡めとって離さない。
さっきもそうだった。伶と舞に気付かれぬよう、テーブルの下で繋がれた大きな手を払い除けられなかった。
絡めた二人の指は離れる気配もなく美夜を公園の内部に誘った。公園に繋がる階段を上がって左に折れた所には、自転車置き場とシャッターの降りた防災用の資材置き場がある。
ここは道路からも、園内で花火見物をする人々の視線からも逃れられる死角の場所。
誰の視界にも入らない死角で二人きり。皆がスマートフォン越しの夜空を見上げていても、彼女と彼の瞳に花火は映らない。
「私が舞ちゃんに感じている罪悪感も木崎さんにはわからないんでしょうね」
『舞に罪悪感を感じる必要あるか?』
「ありますよ。だって……」
呑み込んだ言葉の欠片を探しても何を言おうとしていたのか、今となってはもう曖昧だ。
『……だって、の続きは?』
繋いだ手とは逆の手で、美夜の片耳を塞いだ愁の指に鈴蘭のピアスが優しく触れる。片耳が塞がれた世界で愁の声だけが鮮明に聴こえた。
2時間前にこの坂道を下った時は西側に赤い太陽が落ちていた。今はその場所には、夜にしか見えない花が咲き乱れている。
「舞ちゃんをきっぱり振るなんて意外でした」
『未成年と恋愛する気はねぇよ』
「それにしたってあの振り方は残酷ですよ」
『優しい言葉で曖昧に振って未来に期待を持たせる方が酷だろ? 舞を恋愛対象に見ることはない。一生な』
転坂を登りきって平坦な道に入ると、道沿いの背の高いマンションやビルのベランダに人の影をちらほら見かけた。花火の音に紛れてどこかの家の赤ん坊の泣き声も聴こえる。
きっと今頃、舞も泣いている。自分の存在によって少女の心を傷付けた言い様のない罪悪感は、数歩先を歩く愁の背中が視界に入るたびに大きく膨らんだ。
辿り着いた赤坂氷川公園には夜空に咲く花を楽しむ人々が集まっている。
送ってもらうのもこの辺りまでで構わないのに、此処《ここ》を立ち去りがたい空気があるのは花火に背を向けたくないから?
『今度ムゲットで何か奢る』
「それは食事の約束?」
『ムゲットは飯を食う店じゃなかったか?』
「勘違いされるのが嫌だから、彼女役が私になったんですよね?」
『深い意味はない。ただの礼だ』
木崎愁は残酷で優しい男だ。
此処を立ち去れない美夜の想いを知ってか知らずか、愁から触れ合わせた指先が美夜を絡めとって離さない。
さっきもそうだった。伶と舞に気付かれぬよう、テーブルの下で繋がれた大きな手を払い除けられなかった。
絡めた二人の指は離れる気配もなく美夜を公園の内部に誘った。公園に繋がる階段を上がって左に折れた所には、自転車置き場とシャッターの降りた防災用の資材置き場がある。
ここは道路からも、園内で花火見物をする人々の視線からも逃れられる死角の場所。
誰の視界にも入らない死角で二人きり。皆がスマートフォン越しの夜空を見上げていても、彼女と彼の瞳に花火は映らない。
「私が舞ちゃんに感じている罪悪感も木崎さんにはわからないんでしょうね」
『舞に罪悪感を感じる必要あるか?』
「ありますよ。だって……」
呑み込んだ言葉の欠片を探しても何を言おうとしていたのか、今となってはもう曖昧だ。
『……だって、の続きは?』
繋いだ手とは逆の手で、美夜の片耳を塞いだ愁の指に鈴蘭のピアスが優しく触れる。片耳が塞がれた世界で愁の声だけが鮮明に聴こえた。