〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
吐き気を堪えて愁は細部を観察する。舞達がいる部屋は、ピンク色の壁紙に赤いベッドカバーが毒々しい。
撮影場所はラブホテルで間違いない。
『舞はカメラの存在に気付いていませんね。男はたまに視線がカメラを向いている。アングルのパターンは二つ。カバンや腕時計にでも小型カメラを仕込んでいたのでしょう』
最初の動画のアングルは寄りの構図だった。この位置は、おそらくベッドのサイドテーブル。
寄りの映像は腕時計型のカメラ、引きの映像はソファーかテーブルにでも置いたカバンに仕込んだカメラで盗撮したのだろう。
『この映像はいつ届いたんですか?』
『今朝、私宛に動画付きでこのメールが届いた。ご丁寧に差出人の名前つきだ。雨宮の奴、ふざけたことを』
愁は動画が添付されたメールの本文を黙読する。差出人は雨宮冬悟。
内容は失笑するくらい予想通りだった。要は金の話、舞の動画と引き換えに夏木に金を都合しろと、雨宮は要求している。要求金額は一億。
『どうするつもりです?』
『奴にくれてやる金などない』
『けれど向こうは舞の動画を持っている。下手な真似をすればリベンジポルノをされかねません。これがネットに流されたら、夏木コーポレーションとしても大打撃になります』
『動画は元のデータを回収しろ。あとの始末はわかってるな? 舞にも伶にも秘密裏に処理しろ』
面倒事はすべて愁に押し付ける。夏木十蔵はそういう男だ。
どうしてこんな事態になってしまったのか、元を辿れば元凶は夏木自身にあると言うのに、この男はまったく悪びれない。いつもそうだ。
『舞には紫音さんの存在は明かしていなかったんですよね』
『実の母親が死んでいるとは伶から聞かされているはずだが、紫音の記憶はほとんどないだろう』
伶と舞の産みの母親の名は、明智紫音。旧姓は雨宮。
雨宮家は京都に拠点を置く名門の華道家。紫音の実家は雨宮流の東京の分家であり、彼女は雨宮分家の長女だった。
紫音の兄が件《くだん》の雨宮冬悟だ。舞は雨宮冬悟と血の繋がりのある彼の姪。
伯父と姪が肉体関係を持った。近親相姦の動画を見せつけられて、今にも身体中の胃液が逆流しそうだった。
『舞にとっての母親はお前が殺したあの女だ』
『俺に明智と後妻の女を殺すよう命じたのは、あなたですよ』
舞の戸籍上の父親である明智信彦と後妻の京香は10年前に愁が殺害した。夏木と信頼関係を築けていると思い込んでいた明智の、愁に銃口を向けられた瞬間の蒼白の表情は10年経っても忘れない。
撮影場所はラブホテルで間違いない。
『舞はカメラの存在に気付いていませんね。男はたまに視線がカメラを向いている。アングルのパターンは二つ。カバンや腕時計にでも小型カメラを仕込んでいたのでしょう』
最初の動画のアングルは寄りの構図だった。この位置は、おそらくベッドのサイドテーブル。
寄りの映像は腕時計型のカメラ、引きの映像はソファーかテーブルにでも置いたカバンに仕込んだカメラで盗撮したのだろう。
『この映像はいつ届いたんですか?』
『今朝、私宛に動画付きでこのメールが届いた。ご丁寧に差出人の名前つきだ。雨宮の奴、ふざけたことを』
愁は動画が添付されたメールの本文を黙読する。差出人は雨宮冬悟。
内容は失笑するくらい予想通りだった。要は金の話、舞の動画と引き換えに夏木に金を都合しろと、雨宮は要求している。要求金額は一億。
『どうするつもりです?』
『奴にくれてやる金などない』
『けれど向こうは舞の動画を持っている。下手な真似をすればリベンジポルノをされかねません。これがネットに流されたら、夏木コーポレーションとしても大打撃になります』
『動画は元のデータを回収しろ。あとの始末はわかってるな? 舞にも伶にも秘密裏に処理しろ』
面倒事はすべて愁に押し付ける。夏木十蔵はそういう男だ。
どうしてこんな事態になってしまったのか、元を辿れば元凶は夏木自身にあると言うのに、この男はまったく悪びれない。いつもそうだ。
『舞には紫音さんの存在は明かしていなかったんですよね』
『実の母親が死んでいるとは伶から聞かされているはずだが、紫音の記憶はほとんどないだろう』
伶と舞の産みの母親の名は、明智紫音。旧姓は雨宮。
雨宮家は京都に拠点を置く名門の華道家。紫音の実家は雨宮流の東京の分家であり、彼女は雨宮分家の長女だった。
紫音の兄が件《くだん》の雨宮冬悟だ。舞は雨宮冬悟と血の繋がりのある彼の姪。
伯父と姪が肉体関係を持った。近親相姦の動画を見せつけられて、今にも身体中の胃液が逆流しそうだった。
『舞にとっての母親はお前が殺したあの女だ』
『俺に明智と後妻の女を殺すよう命じたのは、あなたですよ』
舞の戸籍上の父親である明智信彦と後妻の京香は10年前に愁が殺害した。夏木と信頼関係を築けていると思い込んでいた明智の、愁に銃口を向けられた瞬間の蒼白の表情は10年経っても忘れない。