〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
『お前が手に入ればあの子もこんな馬鹿な真似は止めるだろう。舞がお前を欲しがるなら、望み通り抱いてやればいい』
『こんなクソ動画を観た後によくそんなことが言えますね。会長は倫理的におかしい』
『ほぉ、お前が倫理を語るとはな』
『俺はあなたよりは倫理は欠如していない。俺が舞に手を出さない理由を、会長ならわかっているでしょう』
舞を抱けなどと冗談でも言われたくなかった。
愁が舞と肉体関係を結べば舞は満足する。夏木の言うように、愁を手に入れたら舞も他の男に身体を差し出す行いはしない。
それでは何の意味もなく、問題は何も解決しないと愁はわかっている。舞の希望を叶えることは舞の人生を破壊するのと同義だ。
『あなたとの本当の関係を舞に一生言わないつもりですか?』
『言ってどうなる。舞は私の養女、それで充分だ』
『雨宮家の人間も舞の父親は明智だと思っている。でもこのメールを読む限りは、雨宮冬悟は舞の出自を知っていますよ。何故です?』
『さぁな。雨宮に聞いてみればいい。奴が口を割るかはわからんがな』
気だるげに煙草をふかす夏木の意識はここではない場所にある。舞のことよりも、彼は紫音のことを考えているのかもしれない。
夏木の宝物は雨宮紫音だけ。他の人間は彼の道具に過ぎない。
明智信彦もどこかで気付いたはずだ。舞が自分の娘ではないと。
親の愛情が極端に足らなかった舞は愛情を強く欲している。愛して、愛して、と、親に向けられるべき矢印は愁に向けられた。
『子どもを愛せないなら作らないでください。産まれるしかなかったこっちはいい迷惑です』
冷たく吐き捨てて夏木に背を向けた。逆流しそうな胃液を必死で押さえ込んで地下駐車場の車に逃げ込んだ愁は、震える手で白色のスマートフォンを掴む。
シートに背中を深く預け、トークアプリの通話ボタンを押す。相手が出てくれるかわからない電話でも、心地よく響く呼び出し音が愁を夜叉《やしゃ》の世界から連れ戻してくれた。
少しでいい。
美夜の声が聞きたかった。
少しでいいから。
美夜に会いたかった。
『こんなクソ動画を観た後によくそんなことが言えますね。会長は倫理的におかしい』
『ほぉ、お前が倫理を語るとはな』
『俺はあなたよりは倫理は欠如していない。俺が舞に手を出さない理由を、会長ならわかっているでしょう』
舞を抱けなどと冗談でも言われたくなかった。
愁が舞と肉体関係を結べば舞は満足する。夏木の言うように、愁を手に入れたら舞も他の男に身体を差し出す行いはしない。
それでは何の意味もなく、問題は何も解決しないと愁はわかっている。舞の希望を叶えることは舞の人生を破壊するのと同義だ。
『あなたとの本当の関係を舞に一生言わないつもりですか?』
『言ってどうなる。舞は私の養女、それで充分だ』
『雨宮家の人間も舞の父親は明智だと思っている。でもこのメールを読む限りは、雨宮冬悟は舞の出自を知っていますよ。何故です?』
『さぁな。雨宮に聞いてみればいい。奴が口を割るかはわからんがな』
気だるげに煙草をふかす夏木の意識はここではない場所にある。舞のことよりも、彼は紫音のことを考えているのかもしれない。
夏木の宝物は雨宮紫音だけ。他の人間は彼の道具に過ぎない。
明智信彦もどこかで気付いたはずだ。舞が自分の娘ではないと。
親の愛情が極端に足らなかった舞は愛情を強く欲している。愛して、愛して、と、親に向けられるべき矢印は愁に向けられた。
『子どもを愛せないなら作らないでください。産まれるしかなかったこっちはいい迷惑です』
冷たく吐き捨てて夏木に背を向けた。逆流しそうな胃液を必死で押さえ込んで地下駐車場の車に逃げ込んだ愁は、震える手で白色のスマートフォンを掴む。
シートに背中を深く預け、トークアプリの通話ボタンを押す。相手が出てくれるかわからない電話でも、心地よく響く呼び出し音が愁を夜叉《やしゃ》の世界から連れ戻してくれた。
少しでいい。
美夜の声が聞きたかった。
少しでいいから。
美夜に会いたかった。