〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
犯罪組織カオスが関与した殺人事件が横行していた2007年から2009年。
カオス壊滅とキングの逮捕を掲げて結成された捜査本部の中心にいたのは、上野恭一郎と小山真紀だと聞いている。
当時は所轄署の刑事だった杉浦もキング脱獄前のカオスの事件とは関わりが薄かったらしい。
真紀と杉浦が他部署の刑事達と話している隙を狙って、すかさず芳賀は美夜に近寄った。美夜の隣には九条がいるが、芳賀は美夜しか見えていない。
『神田さんに会えて嬉しいな。俺もあと1年そっちに居られたら、神田さんと同じ班だったかと思うと悔やまれる』
「はぁ……」
『この事件が解決したら懇親会しようよ』
『芳賀さん。特命の人達に呼ばれてますよ。行かなくていいんですか?』
咳払いした九条が美夜と芳賀の会話に割って入ってくる。
直前に九条が特命対策室の刑事に話しかけていたのを、美夜は横目で捉えていた。古巣の後輩に絡む厄介な先輩刑事の引き取りをあちらに願い出ていたのだろう。
『……九条くんもなかなか策士だな』
『うちの相棒は取り扱いが難しいのでおすすめできませんよ。俺もやっと最近まともにコミュニケーションが取れてきたくらいですし。懇親会にはぜひ俺も呼んでくださいね、芳賀先輩』
当人を差し置いて九条と芳賀の間で起きる牽制の嵐に美夜は付き合いきれない。二人の男を放って、席に着いた彼女の横に遅れて九条が着席した。
『気を付けろよ。何度も言うが、神田は顔だけはいいんだからな。今もあっちこっちの男から狙われてるぞ』
「九条くんが番犬のように側にいて睨み付けていれば大丈夫じゃない?」
『番犬とは失礼な……。しかし芳賀さんはよく喋る人だな。先輩面は多少、鬱陶しいけど』
「会議の規模に緊張してる私達を和ませようとしていたから、悪気はないのよ。捜査本部で女口説こうとしなければ、芳賀さんはいい先輩だと思う」
昨日の伊吹大和の気持ちの悪い視線に比べれば、芳賀や他の男性刑事から注がれる興味の視線はさして気にならない。
美夜の気がかりは今回の大学生連続殺人事件と、木崎愁のこと。
(あんな弱った木崎さんの声、らしくなかったな……)
昨晩、愁から電話が入った。予告もない電話は毎度のことでも、少し心を踊らせながらスマートフォン越しに聴いた愁の第一声は今にも泣きそうな声だった。
あまりに弱々しい声を発する愁に、何があったか尋ねるのも憚《はばか》られて何も聞けないまま、明日の天気の話や美夜の祖母の家で飼っている猫の話、猫と犬はどっちが好きかなど、大して実にならない話をしていた。
カオス壊滅とキングの逮捕を掲げて結成された捜査本部の中心にいたのは、上野恭一郎と小山真紀だと聞いている。
当時は所轄署の刑事だった杉浦もキング脱獄前のカオスの事件とは関わりが薄かったらしい。
真紀と杉浦が他部署の刑事達と話している隙を狙って、すかさず芳賀は美夜に近寄った。美夜の隣には九条がいるが、芳賀は美夜しか見えていない。
『神田さんに会えて嬉しいな。俺もあと1年そっちに居られたら、神田さんと同じ班だったかと思うと悔やまれる』
「はぁ……」
『この事件が解決したら懇親会しようよ』
『芳賀さん。特命の人達に呼ばれてますよ。行かなくていいんですか?』
咳払いした九条が美夜と芳賀の会話に割って入ってくる。
直前に九条が特命対策室の刑事に話しかけていたのを、美夜は横目で捉えていた。古巣の後輩に絡む厄介な先輩刑事の引き取りをあちらに願い出ていたのだろう。
『……九条くんもなかなか策士だな』
『うちの相棒は取り扱いが難しいのでおすすめできませんよ。俺もやっと最近まともにコミュニケーションが取れてきたくらいですし。懇親会にはぜひ俺も呼んでくださいね、芳賀先輩』
当人を差し置いて九条と芳賀の間で起きる牽制の嵐に美夜は付き合いきれない。二人の男を放って、席に着いた彼女の横に遅れて九条が着席した。
『気を付けろよ。何度も言うが、神田は顔だけはいいんだからな。今もあっちこっちの男から狙われてるぞ』
「九条くんが番犬のように側にいて睨み付けていれば大丈夫じゃない?」
『番犬とは失礼な……。しかし芳賀さんはよく喋る人だな。先輩面は多少、鬱陶しいけど』
「会議の規模に緊張してる私達を和ませようとしていたから、悪気はないのよ。捜査本部で女口説こうとしなければ、芳賀さんはいい先輩だと思う」
昨日の伊吹大和の気持ちの悪い視線に比べれば、芳賀や他の男性刑事から注がれる興味の視線はさして気にならない。
美夜の気がかりは今回の大学生連続殺人事件と、木崎愁のこと。
(あんな弱った木崎さんの声、らしくなかったな……)
昨晩、愁から電話が入った。予告もない電話は毎度のことでも、少し心を踊らせながらスマートフォン越しに聴いた愁の第一声は今にも泣きそうな声だった。
あまりに弱々しい声を発する愁に、何があったか尋ねるのも憚《はばか》られて何も聞けないまま、明日の天気の話や美夜の祖母の家で飼っている猫の話、猫と犬はどっちが好きかなど、大して実にならない話をしていた。