〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 饒舌《じょうぜつ》ではない美夜の拙《つたな》い話を、愁は優しい相槌で聞いてくれる。いつもは話の合間にからかったり茶化すくせに、昨日の愁はほとんど聞き役に徹していた。

(あんな風に弱ったところ見せられると気になっちゃうんだよね)

様子を見に家を訪ねることも考えたが、彼の家には同居人の夏木伶と舞がいる。伶はともかく、愁を慕う舞とは顔を会わせ辛い。
舞も愁の恋人だと思っている美夜の訪問にいい顔はしないだろう。

(これじゃあまるでお節介な女みたい。彼女でもないのに……。私って木崎さんの何?)

 愁とはキスもデートもしている。けれど、はっきり付き合おうと言われたわけではなく愛の言葉を囁かれてもいない。

 恋人ではない。友達でもない。友達以上恋人未満の呼び方もしっくりこない。
そもそも美夜自身は愁をどう思っている?
美夜の誕生日の夜に会いたいと言う愁は、美夜をどう思っている?

(デートもキス……も嫌じゃない。昨日の電話だって声が聞けて嬉しかった。わからない……)

曖昧な愁との関係に心の靄《もや》が濃くなる。この気持ちの正体を認めてしまえば、何かが変わってしまう予感がしていた。

 溜息をつく美夜を九条が肘で小突いた。はっとして伏せた顔を上げた美夜に九条が小声で告げる。

『会議始まる』
「あ……うん」

 起立の号令がかかり、会議室にいるすべての刑事が一斉に立ち上がる。美夜が今やるべきことは捜査会議だ。
彼女は瞬時に思考を切り替えた。

 捜査会議の冒頭は増山昇の解剖結果報告だ。先月に殺された瀬田と同じく、死因は絞殺による窒息死。

凶器は太さ八ミリの丈夫なロープと断定され、ここで芳賀敬太が所属する特命捜査対策室の室長がマイクを握った。

『2016年8月から同様の手口による連続絞殺事件が相次いでいます』

 電気が消され、薄暗くなった会議室でプロジェクタースクリーンだけが明るい。特命対策室が作成した2016年からの連続絞殺事件の資料がスクリーンに映し出された。

 最初の事件は2016年8月7日。被害者は世田谷区在住の二十代のOLだった。
次の事件は8月12日、被害者は足立区在住の五十代男性。

どちらも死因は絞殺。使用された凶器は持ち去られているが、首に残る絞め跡から太さ八ミリ程度のロープと推定。

以降、ひと月に二人あるいは三人、多い時は四人のペースで絞殺事件が起きていた。

 被害者が男性や体格の良い相手には、スタンガンで気絶させてから首を絞めている。今回の瀬田、増山もスタンガンで気絶させた後の殺害だ。
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