〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 最初に殺された世田谷区の二十代女性は、職場の既婚男性と不倫をしていた。警察は真っ先に不倫相手の妻に嫌疑を向けるが、妻にはアリバイがあった。

二件目の足立区の五十代男性も、職場ではパワハラ上司と有名で部下達に疎まれていた。男性のパワハラ被害で重度の鬱《うつ》病となり、退職を余儀なくされた元部下の男にもアリバイがある。

 どの事件も被害者を恨んでいると思われる人間には決まってアリバイがあり、捜査は暗礁に乗り上げる。
やがて未解決事件として、捜査権は所轄署から警視庁の特命捜査対策室に移行した。

 被害者の数は2016年8月から2018年10月までの2年間で増山昇を含めて七十一人。スクリーンには今年発生した連続絞殺事件の被害者リストが映っていた。

「4月の欄に上中里の主婦絞殺事件もあるね」
『やっぱりな。連続絞殺事件との関連を調べるために、あの事件に主任が呼ばれたんだろう』

 2018年4月の被害者リストに北区上中里の主婦、井川楓の名前を見つけた。出張で福岡にいた楓の夫には、やはり鉄壁のアリバイがある。

楓とマッチングアプリを通じて交際していた男子大学生の妹は、同時期に起きていたデリヘル嬢連続殺人事件の犯人の教え子だった。

 8月の欄に表示された芹沢小夏の肩書きには法栄大学の記載がある。学部は違うが、あの夏木伶と同じ大学だ。

『瀬田、増山の殺害と一連の絞殺事件との関係については引き続き、特命対策室と捜査一課が合同で捜査を行う』

 上野恭一郎のまとめで連続絞殺事件の話はひとまず終了し、議題は瀬田と増山の殺害動機として最有力だと思われる望月莉愛の集団強姦事件の話に移る。

瀬田だけでなく増山も同じ方法で殺されたとなれば、推測できる動機は望月莉愛の復讐しかない。そして瀬田、増山の犯行手口は一昨年から続く連続絞殺事件の手口そのもの。

 連続絞殺事件で殺された七十一人の被害者は何らかの恨みを買う者ばかり。だが被害者を恨んでいる人間には、必ず犯行時のアリバイが証明されている。

交換殺人という言葉も出る中、ある刑事は“復讐代行殺人”の可能性を示唆した。

 何者かが、例えば金銭と引き換えに復讐心を秘めている者の望みを、殺人という方法で叶えているとしたら疑わしい人間にアリバイがあるのも頷ける。
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