〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 雪枝がいる公園は白金高輪駅から徒歩すぐの高台にあった。付近の駐車場に駐車した車に美夜を残して、九条は公園に急ぐ。
大通りから脇道に入って傾斜のきつい坂を上がると、雨の匂いを含んだ曇天の下に秋色に色付く公園が見えた。

 平日のこんな時間に公園にいるのは外回りの骨休めに缶コーヒーを飲むサラリーマンか放浪のホームレス、白金のセレブな親子か、どれかだろう。
この街の属性を考えるとホームレスだけはいないかもしれない。

 周りをビルに囲まれた高台の公園で、制服姿の少女がベンチで肩をすくめて待っていた。他に人の姿はなく、数羽の鳥が木の上で羽を休めている。

『雪枝ちゃん』

声をかけても雪枝は顔を上げない。

「……ごめんなさい」
『心配したよ。……飲む? 雪枝ちゃんの好きなミルクの多いカフェオレ』

 雪枝に差し出したのは、駐車場の前に設置された自販機で購入したホットのカフェオレだ。ポケットに入れて冷めないように手で保温していた九条の手のひらは、紅葉の葉みたいに赤くなっている。

彼女はおずおずとカフェオレの缶を受け取り、それを一口飲むと缶を両手で包み込んだ。

『家か学校、どっちかに送るよ。どっちがいい?』
「学校サボった理由、聞かないんですか?」
『聞いて欲しくなさそうだから聞かない。でも無断欠席はダメだ。休むならちゃんと学校に連絡しなさい』

 学生時代に学校に行きたくないと思った経験が九条はほんの数回しかない。基本的に九条は学校が好きな人間だ。

記憶から絞り出した、わずかなずる休みの経験も体調不良を装って親や教師を騙した罪悪感が1日中付きまとっていた。

 身体は健康でも心が健康じゃない時もある。
休息は心の栄養に繋がる。日本人は休みを悪いものと捉えていると、海外生活が長かった高校の同級生に指摘されたこともある。

『今日休めば、明日も休みたくなる。明日、学校に行けると思うならずる休みもいいよ。だけど俺は明日も行けないと思うなら、今日は無理してでも行く方を選ぶよ。どちらにするかは雪枝ちゃんが決めるんだ』

 今日休んで明日、心が健康になるなら今日は休めばいい。
けれど、心の健康を取り戻すのに時間がかかりそうな時はどうすればいい?

きっと、ここが分かれ道。
明日の自分が笑えるのは、どちらの道か。
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