〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
雨宮のように妹の日記を懇切丁寧に持ち歩いて、事細かに日記の内容を把握するのは如何なものか。
『その頃、あなたはすでに結婚していましたよね。なのに紫音を口説いていた。僕は妹が妻のある男にたぶらかされているなんて、全然知らなかった』
『君は誤解をしている。その頃の私と紫音は深い関係にはなかった。茶飲み友達とでも言うのかな。紫音を愛しく感じてはいたが、彼女の未来を私は優先したんだ』
『紫音の未来を考えて手を出さなかったと?』
『当然だろう。悪党だのゲスだのと罵られる私でも、いくらなんでも未来ある未成年に不倫はさせない。私は君とは違うよ』
これは夏木からの雨宮への最大の皮肉だ。皮肉の意味を悟った雨宮は、反論の言葉を喉を鳴らして呑み込んだ。この話題は分《ぶ》が悪いと判断したようだ。
『だが、紫音の未来は幸福なものではなかった。嫁いだ相手が悪かったんだ』
『それについては同感です。縁談の話は明智家から持ち込まれました。僕は反対したんですがね。明智からのしつこいアプローチでこちらは大事な妹を嫁がせたのに、明智は紫音に暴力をふるっていた』
代々、不動産業を営む明智家の長男、信彦は埼玉のホテルで行われた資産家のパーティーに招待されていた。そこで同じく雨宮分家の長女として出席していた雨宮紫音を見初める。
東京まで通いつめて紫音を口説くも、紫音からも雨宮家からも良い返事はもらえなかった。最後は多額の金と引き換えに念願叶って紫音を妻に迎えたが、明智が本性を現したのはそれから間もなくのこと。
『明智の暴力が酷くなった原因は、あなたにもありますよね。紫音の日記には舞が生まれてからさらに暴力が酷くなったと。伶も虐待に遭っていたようですが、生まれたばかりの舞にも明智は手をあげそうになったと書かれています』
『赤子まで虐待しようとは、恐ろしい男だな』
『本当に恐ろしいのはあなたと明智のどちらでしょうか? あなたは明智との生活に疲れていた紫音に優しくするフリをして、紫音を自分のものにしたんだ。舞は明智の娘じゃない。あなたが嫌がる紫音を犯してできた罪の子だ』
雨宮の瞳が鋭く光った。雨宮と夏木、両方の顔色を観察できる位置にいる愁は、紫音を巡る二人の男の言い争いを冷めた眼差しで傍観する。
『また君は誤解しているね。紫音との関係は認めるよ。だが、紫音の方から私を頼ってきたんだ』
『そんなはずない。紫音は……』
『人の話は最後まで聞きなさい。君の言うように紫音は明智との結婚生活に疲れていた。明智の実家には馬が合わない姑がいる、雨宮の分家が明智家に融資を受けていた関係で離婚したいとも言い出せない。あの頃の紫音の立場は非常に辛いものだった』
夏木と紫音の関係の始まりを愁は夏木から聞かされている。伶を出産後、初めての育児、癇癪《かんしゃく》持ちの夫から吐かれる暴言や暴力、あげくに義実家との関係に紫音は疲れていた。
『その頃、あなたはすでに結婚していましたよね。なのに紫音を口説いていた。僕は妹が妻のある男にたぶらかされているなんて、全然知らなかった』
『君は誤解をしている。その頃の私と紫音は深い関係にはなかった。茶飲み友達とでも言うのかな。紫音を愛しく感じてはいたが、彼女の未来を私は優先したんだ』
『紫音の未来を考えて手を出さなかったと?』
『当然だろう。悪党だのゲスだのと罵られる私でも、いくらなんでも未来ある未成年に不倫はさせない。私は君とは違うよ』
これは夏木からの雨宮への最大の皮肉だ。皮肉の意味を悟った雨宮は、反論の言葉を喉を鳴らして呑み込んだ。この話題は分《ぶ》が悪いと判断したようだ。
『だが、紫音の未来は幸福なものではなかった。嫁いだ相手が悪かったんだ』
『それについては同感です。縁談の話は明智家から持ち込まれました。僕は反対したんですがね。明智からのしつこいアプローチでこちらは大事な妹を嫁がせたのに、明智は紫音に暴力をふるっていた』
代々、不動産業を営む明智家の長男、信彦は埼玉のホテルで行われた資産家のパーティーに招待されていた。そこで同じく雨宮分家の長女として出席していた雨宮紫音を見初める。
東京まで通いつめて紫音を口説くも、紫音からも雨宮家からも良い返事はもらえなかった。最後は多額の金と引き換えに念願叶って紫音を妻に迎えたが、明智が本性を現したのはそれから間もなくのこと。
『明智の暴力が酷くなった原因は、あなたにもありますよね。紫音の日記には舞が生まれてからさらに暴力が酷くなったと。伶も虐待に遭っていたようですが、生まれたばかりの舞にも明智は手をあげそうになったと書かれています』
『赤子まで虐待しようとは、恐ろしい男だな』
『本当に恐ろしいのはあなたと明智のどちらでしょうか? あなたは明智との生活に疲れていた紫音に優しくするフリをして、紫音を自分のものにしたんだ。舞は明智の娘じゃない。あなたが嫌がる紫音を犯してできた罪の子だ』
雨宮の瞳が鋭く光った。雨宮と夏木、両方の顔色を観察できる位置にいる愁は、紫音を巡る二人の男の言い争いを冷めた眼差しで傍観する。
『また君は誤解しているね。紫音との関係は認めるよ。だが、紫音の方から私を頼ってきたんだ』
『そんなはずない。紫音は……』
『人の話は最後まで聞きなさい。君の言うように紫音は明智との結婚生活に疲れていた。明智の実家には馬が合わない姑がいる、雨宮の分家が明智家に融資を受けていた関係で離婚したいとも言い出せない。あの頃の紫音の立場は非常に辛いものだった』
夏木と紫音の関係の始まりを愁は夏木から聞かされている。伶を出産後、初めての育児、癇癪《かんしゃく》持ちの夫から吐かれる暴言や暴力、あげくに義実家との関係に紫音は疲れていた。