〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
『大和くんの身辺の護衛には神田をつける』
『待ってください。どうして神田を? 身辺警護なら警護課の人間に任せるべきでは……』
『九条、落ち着け。民間人の警護に警護課の人員は割けない。それに神田の担当は大和くんからの指命だ』
警視庁警備部警護課所属、俗に言うSPと呼ばれる捜査員の警護対象者は首相や皇族、海外の要人クラスの人間に限る。弁護士会副会長の息子であろうとも、民間人の警護にSPは使えない。
伊吹弁護士は美夜の容姿をまじまじと眺め、明らかに落胆の溜息をついた。
『こんなにか弱そうなお嬢さんに息子の命を預けるのは少々不安ではありますが……』
『父さん、綺麗なお姉さんにそんな酷いこと言うなよ。むさ苦しい男より美人な女刑事さんに守ってもらう方が、俺の気分がアガるんだから。ね、神田さんやってくれるよね?』
この父親にこの息子有り。失礼に失礼を重ねた伊吹親子の会話を美夜は右から左に聞き流し、横目で上野と目を合わせる。
上野の眼差しは、この場は従えとの意味だ。一課長命令では仕方ない。
警護は24時間の交代制。美夜が仮眠休憩に入る時はバディの九条が彼女の代わりに大和に付くが、彼の大学の行き帰りや独り暮らし先のマンションでの見張りは、基本的に美夜の仕事となる。
できれば港区のマンションではなく、大和が渡航するまでの数日間は実家に家族と居た方が大和がひとりになる時間が少なく安全だと提案したものの、それは伊吹弁護士が拒否した。
実家には伊吹弁護士とその妻、高校三年生の次男がいる。
受験生の次男に余計な負担をかけたくないだとか、伊吹弁護士はくどくどと建前を述べていたが、要するに自分が息子の面倒事に巻き込まれたくないだけだろう。
大和の悪事を金で解決してきたのも溺愛からの甘さではなく、自身の保身と体裁のためだ。
ワガママ放題の弁護士親子と彼らに従順な秘書が去った警視庁の空気は、嵐の後の街のように疲れていた。
『神田、悪いが明日の休みを返上して出てくれるか? 大和が警護にお前を指名している以上、他に代わりをさせるわけには……』
「わかっています」
『すまない。奴がハワイに行く26日までの辛抱だ。休みはどこかで振り替えるからな』
上野一課長に責任はない。元々、伊吹大和の警護はこちらから要請していた。
それを必要ないと渋っていた向こうが脅迫状が届いた途端に手のひらを返したあげく、警護担当に女刑事の指命とハワイ旅行。
捜査一課の誰もが、怒りを通り越して伊吹親子に呆れ果てるのも当然の結果だった。
『待ってください。どうして神田を? 身辺警護なら警護課の人間に任せるべきでは……』
『九条、落ち着け。民間人の警護に警護課の人員は割けない。それに神田の担当は大和くんからの指命だ』
警視庁警備部警護課所属、俗に言うSPと呼ばれる捜査員の警護対象者は首相や皇族、海外の要人クラスの人間に限る。弁護士会副会長の息子であろうとも、民間人の警護にSPは使えない。
伊吹弁護士は美夜の容姿をまじまじと眺め、明らかに落胆の溜息をついた。
『こんなにか弱そうなお嬢さんに息子の命を預けるのは少々不安ではありますが……』
『父さん、綺麗なお姉さんにそんな酷いこと言うなよ。むさ苦しい男より美人な女刑事さんに守ってもらう方が、俺の気分がアガるんだから。ね、神田さんやってくれるよね?』
この父親にこの息子有り。失礼に失礼を重ねた伊吹親子の会話を美夜は右から左に聞き流し、横目で上野と目を合わせる。
上野の眼差しは、この場は従えとの意味だ。一課長命令では仕方ない。
警護は24時間の交代制。美夜が仮眠休憩に入る時はバディの九条が彼女の代わりに大和に付くが、彼の大学の行き帰りや独り暮らし先のマンションでの見張りは、基本的に美夜の仕事となる。
できれば港区のマンションではなく、大和が渡航するまでの数日間は実家に家族と居た方が大和がひとりになる時間が少なく安全だと提案したものの、それは伊吹弁護士が拒否した。
実家には伊吹弁護士とその妻、高校三年生の次男がいる。
受験生の次男に余計な負担をかけたくないだとか、伊吹弁護士はくどくどと建前を述べていたが、要するに自分が息子の面倒事に巻き込まれたくないだけだろう。
大和の悪事を金で解決してきたのも溺愛からの甘さではなく、自身の保身と体裁のためだ。
ワガママ放題の弁護士親子と彼らに従順な秘書が去った警視庁の空気は、嵐の後の街のように疲れていた。
『神田、悪いが明日の休みを返上して出てくれるか? 大和が警護にお前を指名している以上、他に代わりをさせるわけには……』
「わかっています」
『すまない。奴がハワイに行く26日までの辛抱だ。休みはどこかで振り替えるからな』
上野一課長に責任はない。元々、伊吹大和の警護はこちらから要請していた。
それを必要ないと渋っていた向こうが脅迫状が届いた途端に手のひらを返したあげく、警護担当に女刑事の指命とハワイ旅行。
捜査一課の誰もが、怒りを通り越して伊吹親子に呆れ果てるのも当然の結果だった。