〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 殺人や強盗事件専門の捜査一課で身辺警護の経験がある警察官は少数だ。美夜が所属する小山班の刑事は全員、警護課の刑事から身辺警護に必要な知識の講習を受けた。

24時間の警護は伊吹大和のマンション内部を美夜が、マンションの表を九条と杉浦、真紀と補佐要員の刑事が交代で見張る。

 拳銃の携帯命令は美夜と九条のみに出された。
八桁のパスワードと指紋、警察官の個人IDで厳重に管理された拳銃保管室のロックを、美夜が解除する。

『警護が嫌なら嫌って言えばよかったのに』
「九条くん、さっきから機嫌悪くない?」
『通常モードですが。下心丸出しの馬鹿息子に犯されないようにな』
「ご心配なく。弁護士の息子だろうが、下心見えた時点で投げ飛ばす」

拳銃は警察官全員に支給されているS&WのSAKURAではなく、警護課のSPが要人警護の際に携帯するSIG SAUER《シグ・ザウエル》 P230を貸し出された。

『まじにヤバくなった時は俺達を呼べよ』
「ありがとう。ただ何か、犯人側の都合のいいように動かされている気がする」
『動かされている?』
「私達が伊吹の警護をするのを見越しているみたいな、むしろ警護自体が狙いのような……」

 唐突な脅迫状の存在が腑に落ちない。殺人予告を匂わせる脅迫状を差し出せば、少なからずターゲットは警戒する。

殺すならターゲットが油断している隙を狙うのが常套手段、警察にターゲットをガードされては意味がない。この誘導されている感覚は何だろう。

「気になるのは瀬田のスマホがなくなったのも、伊吹の荷物に脅迫状が入れられたのも、大学内での出来事なのよ」
『犯人が大学に忍び込んでアイツらの荷物を探ったってことか』
「そうなるよね。大学には色んな人間が出入りしてる。学生や大学の関係者ですって顔して紛れ込めば、彼らの荷物に近付いてスマホを盗んだり、脅迫状の仕込みも可能だと思う」

瀬田のスマホの紛失も大和に脅迫状を差し出した人間の仕業だとすれば、何故スマホを盗む必要がある?

 弾を装填した拳銃を二人はショルダーホルスターに収める。腋《わき》の下の銃の重みは警察官の責任の重みだ。

「これを使う機会がないといいね」
『そうだな』

 刑事の持つ銃は最後の手段。
願わくは誰にも銃口を向けず、誰も傷付けず、26日までの任務が無事に終わればいい。
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