〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
梅雨の湿気が鬱陶しい時期に頻発したサラリーマン連続殺人の犯人だった高校生にも、美夜は何かしらのシンパシーを感じていた。
次に美夜の感情が揺らいだのは夏。管轄外の看護師殺人事件で、またしても彼女は犯人に心を激しく揺さぶられている。
神田美夜の危うさ。それは犯罪者に同調しやすい心。ともすれば、美夜自身が犯罪を犯してしまいかねない闇を秘めている。
闇の正体は九条が知る限りの情報から推察すると、10年前に埼玉で起きた美夜の同級生の殺人事件だ。
『神田さんが今夜一緒に過ごす相手がどんな奴か知らないのか?』
『知ってたらこんなモヤモヤしてねぇよ。今まで神田から男の気配なんかちっとも感じなかったんだ。なのに誕生日に休み取ってるし、一緒に過ごす男の存在も否定しなかった。どこの誰だろうって気になって、普段は鉄仮面の神田にあんな悲しい顔させる男に無性に腹立ってる、ナウ』
九条には美夜の危うさを側で見守ってきた自負がある。危うくなりがちな彼女が闇に落ちないように、彼女の手を握っていたつもりでいた。
けれど本当の美夜を最も近くで見てきたのは、もしかしたら自分ではないと悟った時の苦い気持ち。美夜が本心から己をさらけ出せる相手は自分ではなく、誰か他にいる。
『話が長い。一言でまとめると、それをヤキモチって言うんですよ、九条くん。あと、ナウは死語だと思う』
『偉そうに……。nowってもう死語なの? 昔は皆やたらとナウナウ言ってた気がする』
『今は誰も言わないな。流行り言葉なんてそんなものだ』
南田のスマホのアラームが鳴った。気の抜けた甲高いメロディに似合わず、アラームを止めた南田の表情は冴えない。
『ゲームの時間か』
『あー、俺もだ。この時間が来ると憂鬱になる』
九条と南田には上野一課長直々に極秘の任務を受けている。任務内容は毎日2時間、クライムアクションゲーム〈agent〉をプレイすること。
『このゲーム変な中毒性ない?』
『ある。自分の中にしっかりストッパーを持っておかないと引きずり込まれる』
アプリを開く南田の隣で九条も〈agent〉のアプリを開いた。また今日も、やりたくもないゲームの世界に閉じ込められる。
アバターを通したバーチャルな犯罪劇。
ゲームの中では殺人も強盗もいじめも強姦も、なんでも許される。この中では悪人こそ正義の世界。
『殺したい奴なんかいないのに、ゲームの殺人に快感を覚えてる自分に気付いて怖くなった。それがきっと、一課長がこのゲームを注視してる理由だよな』
『俺もヤバくなった時は彼女の写真見て正気保ってる。最後はやっぱり、こっち側に繋ぎ止めてくれる存在が必要なんだよ』
南田のアバターはナイフを、九条のアバターは銃を持ち、残虐に街で殺戮を繰り返す。
警察官の彼らが、ゲームの中では犯罪者となって次々に人を殺していく。
殺しのターゲットとの対戦は格闘ゲームで勝った時のスカッとした気分ではない。ドロドロとした、人間の底辺の感情が引きずり出されてくる。
『俺は神田を繋ぎ止めておける存在になれると思う?』
『さあ? でもバディを続けたいなら恋でも情でも、形はどうあれ彼女を手放すなよ』
『わかってる』
最後に必要なのはこちら側に繋ぎ止めてくれる存在。美夜がもし、この手を必要としてくれるなら絶対に手を離さない。
恋でも情でもこの際、自分の感情はどちらでもよかった。
彼女が隣にいてくれさえすれば。
次に美夜の感情が揺らいだのは夏。管轄外の看護師殺人事件で、またしても彼女は犯人に心を激しく揺さぶられている。
神田美夜の危うさ。それは犯罪者に同調しやすい心。ともすれば、美夜自身が犯罪を犯してしまいかねない闇を秘めている。
闇の正体は九条が知る限りの情報から推察すると、10年前に埼玉で起きた美夜の同級生の殺人事件だ。
『神田さんが今夜一緒に過ごす相手がどんな奴か知らないのか?』
『知ってたらこんなモヤモヤしてねぇよ。今まで神田から男の気配なんかちっとも感じなかったんだ。なのに誕生日に休み取ってるし、一緒に過ごす男の存在も否定しなかった。どこの誰だろうって気になって、普段は鉄仮面の神田にあんな悲しい顔させる男に無性に腹立ってる、ナウ』
九条には美夜の危うさを側で見守ってきた自負がある。危うくなりがちな彼女が闇に落ちないように、彼女の手を握っていたつもりでいた。
けれど本当の美夜を最も近くで見てきたのは、もしかしたら自分ではないと悟った時の苦い気持ち。美夜が本心から己をさらけ出せる相手は自分ではなく、誰か他にいる。
『話が長い。一言でまとめると、それをヤキモチって言うんですよ、九条くん。あと、ナウは死語だと思う』
『偉そうに……。nowってもう死語なの? 昔は皆やたらとナウナウ言ってた気がする』
『今は誰も言わないな。流行り言葉なんてそんなものだ』
南田のスマホのアラームが鳴った。気の抜けた甲高いメロディに似合わず、アラームを止めた南田の表情は冴えない。
『ゲームの時間か』
『あー、俺もだ。この時間が来ると憂鬱になる』
九条と南田には上野一課長直々に極秘の任務を受けている。任務内容は毎日2時間、クライムアクションゲーム〈agent〉をプレイすること。
『このゲーム変な中毒性ない?』
『ある。自分の中にしっかりストッパーを持っておかないと引きずり込まれる』
アプリを開く南田の隣で九条も〈agent〉のアプリを開いた。また今日も、やりたくもないゲームの世界に閉じ込められる。
アバターを通したバーチャルな犯罪劇。
ゲームの中では殺人も強盗もいじめも強姦も、なんでも許される。この中では悪人こそ正義の世界。
『殺したい奴なんかいないのに、ゲームの殺人に快感を覚えてる自分に気付いて怖くなった。それがきっと、一課長がこのゲームを注視してる理由だよな』
『俺もヤバくなった時は彼女の写真見て正気保ってる。最後はやっぱり、こっち側に繋ぎ止めてくれる存在が必要なんだよ』
南田のアバターはナイフを、九条のアバターは銃を持ち、残虐に街で殺戮を繰り返す。
警察官の彼らが、ゲームの中では犯罪者となって次々に人を殺していく。
殺しのターゲットとの対戦は格闘ゲームで勝った時のスカッとした気分ではない。ドロドロとした、人間の底辺の感情が引きずり出されてくる。
『俺は神田を繋ぎ止めておける存在になれると思う?』
『さあ? でもバディを続けたいなら恋でも情でも、形はどうあれ彼女を手放すなよ』
『わかってる』
最後に必要なのはこちら側に繋ぎ止めてくれる存在。美夜がもし、この手を必要としてくれるなら絶対に手を離さない。
恋でも情でもこの際、自分の感情はどちらでもよかった。
彼女が隣にいてくれさえすれば。