〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 真紀には幼い二人の息子がいるが、彼らが思春期から大人になる過程で芸能人に陶酔する時期があっても構わない。

 所謂《いわゆる》オタクと呼ばれるカテゴリーに属したとしても、人に迷惑をかけず、応援している芸能人の人権や心を踏みにじる行いをしなければいいだけ。

虚像と実像は違う。幻想を抱いて欲の捌け口に利用した虚像にも心がある。
芸能人も心があるひとりの人間であることを、息子達には忘れないでいてもらいたい。

『神田、大丈夫でしょうか。かなり落ち込んでいましたね』
「フォローしきれなかった私達にも責任はある。今度、神田さんと九条くんも誘って皆でいつものラーメンでも食べに行きましょ」

 杉浦と共にマンションの階段を降りた真紀は、マンションの集合ポストの前で立ち止まる。
住宅街に揺らめく人影を見つけた。影の正体は彼女には自明だ。

「杉浦さん、先に車戻っていて」

 先に杉浦を車に返し、真紀は影に一歩近付く。影の方も真紀に近付いてきた。

「さすがに情報が早いですね、桑田さん」
『身元がわかっていれば自宅を突き止めるのは朝飯前だ』

 前畑のマンションの前に潜んでいた影の正体は週刊ルポルタージュの記者、桑田真隅。

『前畑はクロだったか?』
「桑田さんが仰っていた莉愛のストーカーに関してはおそらく、クロですね。でも捜査情報は話せませんよ」
『ケチくせぇな。せっかくお嬢ちゃんだけに特別なネタを持ってきてやったのに』
「特別なネタ?」
『及川果林と坂元凛々子の枕営業のスクープ。あれは匿名のタレ込み電話があったんだ』

 真紀と桑田は近くの公園に移動した。枯れ葉の舞う公園の木の下に二人は佇む。

『うちはスクープ挙げられるなら儲けモノ。情報提供者が誰か興味もねぇが、事務所移籍なんて極秘の情報を知るのはフルリールに近い人間だろ?』
「果林達の枕営業の情報提供者はフルリールの所属事務所関係者……」

 怪しい男がひとり浮上する。フルリールのマネージャーを務めていた国本和志。

国本ならば果林と凛々子のスケジュールの把握は容易い。彼女達が仕事の合間を縫って、移籍のための枕営業に勤《いそ》しんでいることも知り得たはずだ。

『事務所の関係者が果林達の移籍話をポシャりたいとしても、わざわざ俺らにタレ込む理由がわからねぇ。咲希はエスポワールに拾われ、稼ぎ頭のアイドルグループはいなくなった。あの事務所の経営自体が危うくなるだろうな』

国本マネージャーは高倉咲希の移籍会見の直後に芸能事務所を退職した。住んでいたマンションも引き払い、現在は行方が知れない状態にある。
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