〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
愁が玄関に入った途端に、美夜の身体は愁の長い腕に包み込まれた。彼の胸元に顔を押し付けられて、ぎゅっと強く抱き寄せられる。
本当はずっと愁が来てくれるのを待っていた。ずっと、ずっと待っていた。
スーツからは嗅ぎ馴れた甘い煙草の香りがした。昨夜も同じように抱き寄せられて、愁は美夜の背中越しに伊吹大和を撃ち殺した。
彼は殺戮の瞬間を美夜には見せなかった。あの時の愁がどんな表情で人を殺したのか、美夜は知らない。
「伊吹を殺した時に私も殺せばよかったのに」
『だから殺しに来た』
女を惑《まど》わす甘い声で“殺しに来た”とほざく男は世界にただひとり、木崎愁だけだ。声とセリフのミスマッチがおかしくて笑ってしまう。
「本当は何しに来たの?」
『逮捕されに?』
「捕まる気なんかないくせに」
『捕まえる気もないくせに』
密着した身体をわずかに離して彼女と彼は視線を合わせた。乱れた美夜の黒髪を優しく撫で付けた愁の手が、彼女の顎を持ち上げる。
『誕生日の夜は空けておいてって約束しただろ』
「薔薇の花束は?」
『忘れた』
「嘘つき」
『嘘つきな男は嫌い?』
「……大嫌い」
薔薇と同じ色をした美夜の唇に愁の唇が接触する。軽い接触を繰り返した唇はやがて深い場所まで繋がりを求め、隙間もなく密着した身体はひとつになりたいと叫び始めた。
キスの合間に漏れる二人分の吐息が今後の展開を示唆している。これは地獄への、真夜中の楽園に続く道。
ふわりと浮き上がった美夜の身体と反転する視界。愁に横抱きにされて連れて行かれた先は自分のベッドだ。
美夜の身体をベッドに柔らかく着地させた愁はスーツのジャケットを脱ぎ捨て、緩めたネクタイを解きほどく。
これから始まる原罪に心を整える間、美夜は豪快に服を取り払う彼の仕草を目で追った。
そんなに見るなよと、苦笑する愁の上半身を覆う物はすべて剥がれて、筋肉が引き締まった男の裸体が見慣れている天井の景色に入り込んだ。
「あの……ちょっと待って……」
『待てもお預けもなし』
有無を言わさず、愁は美夜が着ているワンピースタイプのルームウェアを足元から一気にたくしあげる。そのまま頭を通り抜けたルームウェアは、美夜の身体を離れていった。
額と額をつけて至近距離で視線が絡む。
「したことないの。……セックス」
『これまでの反応で、だいたいわかってた』
「二十八で処女は面倒って思ったでしょ?」
『俺ってそんな酷い男に見える?』
「見える」
ふっと笑った愁の穏やかな瞳は伏せられて、磁石のように引き寄せられた唇同士は言葉もなく互いの唇を貪り尽くす。
本当はずっと愁が来てくれるのを待っていた。ずっと、ずっと待っていた。
スーツからは嗅ぎ馴れた甘い煙草の香りがした。昨夜も同じように抱き寄せられて、愁は美夜の背中越しに伊吹大和を撃ち殺した。
彼は殺戮の瞬間を美夜には見せなかった。あの時の愁がどんな表情で人を殺したのか、美夜は知らない。
「伊吹を殺した時に私も殺せばよかったのに」
『だから殺しに来た』
女を惑《まど》わす甘い声で“殺しに来た”とほざく男は世界にただひとり、木崎愁だけだ。声とセリフのミスマッチがおかしくて笑ってしまう。
「本当は何しに来たの?」
『逮捕されに?』
「捕まる気なんかないくせに」
『捕まえる気もないくせに』
密着した身体をわずかに離して彼女と彼は視線を合わせた。乱れた美夜の黒髪を優しく撫で付けた愁の手が、彼女の顎を持ち上げる。
『誕生日の夜は空けておいてって約束しただろ』
「薔薇の花束は?」
『忘れた』
「嘘つき」
『嘘つきな男は嫌い?』
「……大嫌い」
薔薇と同じ色をした美夜の唇に愁の唇が接触する。軽い接触を繰り返した唇はやがて深い場所まで繋がりを求め、隙間もなく密着した身体はひとつになりたいと叫び始めた。
キスの合間に漏れる二人分の吐息が今後の展開を示唆している。これは地獄への、真夜中の楽園に続く道。
ふわりと浮き上がった美夜の身体と反転する視界。愁に横抱きにされて連れて行かれた先は自分のベッドだ。
美夜の身体をベッドに柔らかく着地させた愁はスーツのジャケットを脱ぎ捨て、緩めたネクタイを解きほどく。
これから始まる原罪に心を整える間、美夜は豪快に服を取り払う彼の仕草を目で追った。
そんなに見るなよと、苦笑する愁の上半身を覆う物はすべて剥がれて、筋肉が引き締まった男の裸体が見慣れている天井の景色に入り込んだ。
「あの……ちょっと待って……」
『待てもお預けもなし』
有無を言わさず、愁は美夜が着ているワンピースタイプのルームウェアを足元から一気にたくしあげる。そのまま頭を通り抜けたルームウェアは、美夜の身体を離れていった。
額と額をつけて至近距離で視線が絡む。
「したことないの。……セックス」
『これまでの反応で、だいたいわかってた』
「二十八で処女は面倒って思ったでしょ?」
『俺ってそんな酷い男に見える?』
「見える」
ふっと笑った愁の穏やかな瞳は伏せられて、磁石のように引き寄せられた唇同士は言葉もなく互いの唇を貪り尽くす。