〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 恋人でもない、友達でもない。彼女は刑事、彼は人殺し。
二人は名前のない犯罪を犯した共犯者。

 そうしてふたつの身体はひとつになった。相変わらず美夜の中で窮屈そうに動く愁の分身は、奥へ奥へと、もっと彼女を知りたがる。

 好きだの愛してるだの、そんな甘い言葉は一言もない。こちらもそんなものは期待していない。
けれど今、無性にこの男が欲しい。

彼の前なら赦《ゆる》されると思った。
これが恋? これが愛?
あんなに忌避《きひ》していた性の交わりなのに、この真夜中の楽園に彼女は酔いしれている。

 どうしようもない喪失から救ってくれるのは、きっと愛欲だけだ。


        *

 涙の跡が自分でもわかる頬を枕につけて、美夜はベッドにうずくまった。
事後の下腹部の鈍い痛みは、生理痛の痛みに似ているようで少し違う。これは女にしかわからない苦しみだ。

アダムに知恵の実を食べさせた狡猾なイブに神が与えた女の業《ごう》。神の女嫌いもほどほどにしてもらいたい。

 隣には上半身を起こして煙草を燻《くゆ》らせる愁がいた。彼の端整な横顔の向こうには、闇に輝く大きくて白い満月がビルの谷間から顔を覗かせている。

『秘書の前畑は莉愛のストーカーだ』
「そう。やっぱりあの男が……」
『驚かないな。前畑に裏があると勘づいていたか?』
「大和の警護を勧《すす》めたのが前畑だと聞いた時から、薄々。前畑を操ってわざと警察の目を大和に向けさせ、あなたの仲間が伊吹弁護士の殺害を実行したのね」

 身体を重ねた直後の会話がこれだ。色気のない会話はかえって自分達らしい。

『前畑の目当ては莉愛のリベンジポルノのフル動画。ストーカーの心理的には、喉から手が出るほど欲しいものらしい。交換条件で前畑からお前らの動きの情報を流させた』
「一連の殺人は誰かの依頼? それとも命令?」
『知りたいなら自分で調べれば? 刑事だろ?』

 紫煙を吐いた愁の挑発的な微笑が月明かりに憎らしく浮かぶ。
彼女と彼は恋人でもない友達でもない。
刑事と犯罪者。追う者と追われる者。

 どこまでが愁が犯した罪?
伊吹大和の殺害は愁の犯行でも、他の人間を愁が殺したとは思えない。

伊吹大和が殺された同時刻に父親の伊吹弁護士と秘書の前畑が絞殺された。アイドルの小柴優奈の殺害も、おそらく愁の仕業ではない。

愁の裏に潜む殺人鬼は誰?
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