野いちご源氏物語 〇二 帚木(ははきぎ)
新しく加わったお二人のうち、お一人は三十歳くらいで、恋愛の経験がとても豊富(ほうふ)でいらっしゃったの。
さしずめ恋愛(れんあい)博士(はかせ)ね。
その方がご意見をお述べになったわ。
「まず大出世(だいしゅっせ)した場合ですが、いくら上級(じょうきゅう)貴族(きぞく)になったとしても、やはり世間の目は冷静でございましょう。次に落ちぶれてしまった場合ですが、本人の気持ちだけは以前のままだとしても、貧しさは気持ちではどうにもなりません。ですから、これらの場合はどちらも中流(ちゅうりゅう)に分類するべきです。あとは、地方の長官(ちょうかん)任命(にんめい)されて、(みやこ)から離れて働く貴族たちも中流でしょう。このあたりの姫にはなかなかよい姫がいますよ。

その他の中流としては、ぎりぎり上級貴族ではないけれど世間から信頼されている貴族なんかは理想的な中流ですね。それなりによい家の生まれだから、ガツガツせずおっとりと暮らしている。経済的にも苦労がなくて、たいてい(ひめ)をまばゆいほど大切に育てていますね。そういう姫が完璧(かんぺき)な女性に成長して、内裏(だいり)に上げると思いがけず(みかど)のお目に留まることも多いのです」

源氏(げんじ)(きみ)はそれをお聞きになって、
「つまりは経済力で分類するということか」
とお笑いになる。
頭中将(とうのちゅうじょう)様は、
「ずいぶん単純な言い方をなさる。あなたらしくありませんよ」
とたしなめていらっしゃったわ。
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